2019年04月25日

藤田宜永通読(33)『モダン東京4 堕ちたイカロス』

 『モダン東京4 堕ちたイカロス』(藤田宜永、2002年3月、小学館文庫)を読みました。

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 昭和9年、東京を舞台とする的矢健太郎探偵が活躍する話です。
 時は、飛行機がブームとなった時代。飛行機をテーマにしているものの、いかにも調べた知識で書いたという作品です。

 まず、校正が甘い文庫本であることが気になりました。ほんの一例を。
 「後を追ううにして切れた。」(54頁)は「後を追うようにして切れた。」でしょうか。
 「ドイレ」は「トイレ」(309頁)です。
 その他、誤字・衍字と思われるものが散見します。発行元の校正者の見落としでしょうか。集英社文庫、朝日新聞社単行本に続いて3回目の印刷です。二番煎じ三番煎じ(?)なので、校正業務にも熱が入らなかったこともあり、気が緩んだのでしょう。

 新宿中村屋が出てきます。ライス・カレーはさておき、昭和8年に発売された「ピロシキ」を食べる場面を語ってほしかったのですが……。
 藤田宜永の作品を読んでいて、不満に思うことがしばしばあります。昭和初期の満州やインドに関する記述があっても、まったく知らないで書いたとしか思えないほどに国名を出してなぞるだけなのです。もっと調べて、物語の内容に組み込んだらいいのにと、いつも思っています。日本との歴史と異文化交流に興味がないようなので、残念なことです。話にもっと膨らみと深みが出てくるはずなのです。

 さて、扇原飛行機製作所の企業秘密を巡って、いくつかの殺人事件が起きます。その解明に向けて、的矢は奔走します。
 しかし、緩みっぱなしの語り口と展開で、ダラダラと話が流れていきます。その原因は、人間関係の結びつきが弱く、磁力の弱い磁石のような関係でしか描けなかったからだと思います。人と人との緊張感がないので、行動の必然性もなくて話が締まらないのです。女性の描写が、あいかわらず精彩を欠いています。これは、人物設定のミスマッチと、その行動力のなさから来るものだと思っています。

 警察を敵に回して、丁々発止のやり取りをするあたりから、物語の口調にキレが出ます。最後になって、やっと盛り上がりを意図したと思われる話となるのは、藤田宜永のいつもの特徴です。マラソンで、最後に競技場に入ってから、観客の視線を意識して途端に必至の形相で走るランナーに似ています。

 そんな中で、帝大の優等生の例は、それを言う意図がよくわかりません。
 「野々村は冷静だった。帝大以外は学校ではないと思っている優等生が、警官になった。そんな臭いがプンプン臭っていた。」(274頁)

 さらには、飛行機製作所と軍部との関係を詰めてほしい所でした。甘いのです。
 飛行機を愛する男たちのドラマは、夢を強調して終わります。しかし、私にはそれは夢だと言うほどのもののようには思えません。昭和8年、9年の社会の激動と、若者の生き様を描かないと作り物に脱したままになります。あまりにも中途半端なままで終わりました。

 あまり貶してばかりもいけません。作者は、いい作品も書いているからです。昭和8年という時代を描くために、いろいろと小細工をしていることは楽しめました。それだけに、もっと調べてから書くべきでした。それは、この的矢健太郎シリーズ全体を通して言えることです。【1】

※書誌情報:集英社文庫(1989年7月、書き下ろし)、朝日新聞社(1996年7月、単行本)
 
 
 
posted by genjiito at 23:56| Comment(0) | □藤田通読
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