2019年03月16日

日比谷で橋本本「若紫」を読む(その10、2つの提案を受けて)

 まず、先週出来たばかりの『平安文学翻訳本集成〈2018〉』を全員に配布し、内容を確認しました。さらに、先週行っていたルーマニアで入手した、2冊のルーマニア語訳『源氏物語』を回覧しました。また、ルーマニアで日本文学の研究がなされている具体例として、昨年刊行された研究書も回覧しました。世界中で『源氏物語』をはじめとする多くの作品が読まれていることを、実感してもらったのです。
この講座は、『源氏物語』の写本を読むことが中心です。しかし、こうして世界中で日本文学が読まれていることを知ることで、日本文化の普遍性に気付いていただければ、との思いでさまざまなアプローチをしています。

 さて、橋本本『源氏物語』は、38丁表の最終行「いと・く累しく・れい」から読みました。「尓も」や「越そろしく」で、文字の判別が難しいものがいくつかあるものの、比較的問題のない文章が続く丁だったので、どんどん進んでしまいました。みなさまからは、「こんなに進むのは初めてだ」と言われたほどです。
実際には、41丁表の最終まで読んだので、6頁も進んだことになります。確かに、私の講座では驚異的なスピードです。それだけ、説明する場所がなかったということでもあります。
 この範囲の内容は、藤壺が懐妊し、王命婦、光源氏、桐壺帝のそれぞれの思いを語るところです。非常におもしろい場面です。しかし、私の講座では「藤壺」の「ふ」の字も触れません。ひたすら書写されている墨字だけを追うのです。一風変わった講座だと言われるゆえんです。

 日比谷図書文化館での講座が終わってからは、有志で有楽町に出かけて自主講座をしています。しかし、今日は有楽町ではなくて新橋方面に出向き、レストランで食事をしながら、橋本本「若紫」の現代語訳に挑戦する課外講座となりました。全盲の尾崎さんも、久しぶりに参加です。実は、今日は私がドンドン読み進めたので、尾崎さんに渡していた立体コピーがないところまで行ってしまったのです。2頁分は、手元に資料がない状態で彼女は参加していたのです。申し訳ないことをしました。次回は、大量に資料を渡すつもりです。
 今日の集まりでは、大島本などで、若紫が「十ばかりやあらんとみえて」とある箇所における本文の異同に注目しました。現行の『源氏物語』でこの言葉が書かれている場所は、橋本本にはその言葉が書かれていないのです。橋本本では、その後に大島本などが「あまたみえつる子どもににるべうもあらず」とするところで、「十はかりにや〜」とあります。
 つまり、大島本などの写本に書かれている「あまたみえつる〜」という言葉が、橋本本にはないのです。文字数にして19文字です。写本で言えば、ちょうど1行分です。
 そこで、この1行分の文字列は、平安時代の写本にあったのかどうかで議論となりました。11名の参加者が、思い思いの考えを述べて、楽しい時間が過ぎて行きました。結論としては、平安時代の写本は、橋本本のようにこの1行分の文字列はなかったのではないか、ということになりました。大島本に代表される〈いわゆる青表紙本〉は、後に書き加えられたものである可能性が高い、ということです。その検討には、河内本と言われている本がこぞって橋本本と同じであることも、判断に影響しています。こうして、少しずつでも本文の違いを見ていくと、その積み重ねで『源氏物語』のさまざまな写本の実態がわかっていくのではないか、という夢語りにまで発展しました。
 まったくの素人集団の議論です。学問的にはともかく、こうして『源氏物語』の本文について意見を闘わせるひと時を、みなさんと持つことになりました。

 なお、その過程で、現在の講座に参加している方々は翻字がしたいと思っている、とおっしゃるのです。次回からは、受講者に課題として3頁くらいの翻字をしてもらったらどうだろう、という提案がありました。私は、その流れは遠慮していました。しかし、そのような求めがあるならば、一度やってみようかと思うようになりました。
 次回までの宿題をもらいました。これも、みなさんと親しく写本が読めるようになったからだと思います。

 さらには、写本だけを読む講座と、その物語の内容を異文と較べながら読む講座の、2つの講座を午前と午後にやってもらえないか、という提案も受けました。
この日比谷図書文化館の「古文書塾 てらこや」は、江戸時代の文書を読むのがメインの社会人講座です。そこに、平安時代の仮名文字を読むのはともかく、その内容を読み取る内容の講座の新設が認められるのかどうか。そうであるならば、NPO法人〈源氏物語電子資料館〉が山本氏から寄贈を受けた江戸時代初期の版本の『絵入源氏物語』の本文を配布し、橋本本と読み比べていく内容であれば、「てらこや」の趣旨にも合致することになります。
 とにかく、ご要望は貴重な意見として受け取り、いつかあらためて主催者にお尋ねしてみてもいいかな、と思うようになりました。本講座はもとより、課外の自主講座でもみなさまの熱意が毎回伝わってくるので、検討に値すると思います。私にとっては、1日で終わることなら、そんなに負担が重くなるものでもないので、前向きに対処を考えるつもりです。
 
 
 
posted by genjiito at 23:52| Comment(0) | ◎NPO活動
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