2019年02月23日

[町家 de 源氏](第17回)(変体仮名「寿・春・須」の使い分け)

 「be京都」でのハーバード本『源氏物語 須磨』を変体仮名だけに着目して読む勉強会は、今日で17回目です。

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 勉強している和室の広間は、もう雛祭りの雰囲気です。

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 9丁裏2行目末尾の「き古えさせま本しき」から読みました。しかし、ここに出てきた変体仮名の「寿・春・須」にこだわったために、結果的には次の行の「可寿/\」までの、1行しか本文の確認はできませんでした。
 以下、今日問題とした「寿・春・須」についての資料を提示して、これからの研究者のための情報提供とします。こうした資料をもとにして、さまざまな意見が交わされようになることを願っています。

 今日の参加者の間で話題にしたことは、以下のような点でした。いずれも、現在の五十音の「す(寸)」については検討していません。まずは変体仮名の傾向を見てから、と思っています。

 ・「寿」は写本の行頭に書写されているのに、「春」と「須」は行頭にはない。
 ・「寿」は語頭に来るのに、「春」と「須」は語頭には来ない。
 ・「須」は打ち消しの「ず」として使われる比率が高い。
 ・「須磨」の文字表記は、「寿満」3例、「春満」1例、「春ま」1例
 ・「娘」の文字表記は、「む須免」3例、「む寿免」1例

 これは、じっくり取り組むと、おもしろい仮名文字の使われ方が見えてきそうです。
 当面は、素人集団ながらもこうした変体仮名を読む勉強会で気付いたことを報告し、これからの若い方々が調査し研究対象としてもらえると幸いです。

 こうした視点から、鎌倉時代の写本における文字がどのような変体仮名の組み合わせで書写されているかがわかりそうです。ウインドウズ専用とはいえ、日本語ワープロの「一太郎 2019」では、変体仮名が扱えるようになりました。自由に変体仮名が文書作成に使えるのはいいとして、その仮名文字の使われ方の法則なりルールを確認しておかないと、せっかく国際的に認められたユニコードの変体仮名が無秩序に氾濫し、日本語の表記が節操なく拡散します。1日も早く、変体仮名の組み合わせのルールを確認したいものです。
 翻字が遅々として捗っていないので、少しでも多くの鎌倉時代の写本の文字資料を提供しなくてはいけません。NPO法人〈源氏物語電子資料館〉の仕事は重要です。

 なお、こうした変体仮名の字母に関する問題について言及した実証的な論稿などをご存知の方がいらっしゃいましたら、ご教示いただけると助かります。

■ 公開資料「寿・春・須」 ■


 次の資料は、鎌倉時代中期に書写されたハーバード本の1行分の翻字を列記したものです。その冒頭部分にある4桁の数字は、手元のデータファイルの行数です。これは公開していないので、ハーバード大学蔵本におけるおおよその行数を示すものとして、その位置を推測する参考としてください。『ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「須磨」』は、10行書きの写本です。
 なお、写本の画像は、『ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「須磨」』(伊藤編、新典社、185頁、2013(平成25)年)を、その正確な翻字である「変体仮名翻字版」は、『国立歴史民俗博物館蔵『源氏物語』「鈴虫」』(伊藤鉄也・阿部江美子・淺川槙子 編著、新典社、2015年10月)の巻末資料を参照してください。

■ 「寿」の例 ■


『ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「須磨」』の「寿」

0009:と・いまは・いと・佐と者那れ・【心】寿こくて・あ
0019:るなへての・よ越も・いま八と・寿三八那れな
0024:ても・【又】・あひ三ん・【事】を・可那ら寿と・(1ウ)」
0039:徒まなるへきをなと・おも本し可へ寿
0092:ら寿・くら井を・可へし・堂てまつ里て・
0134:【侍】を・ゝさ那く・ものし・【給】可・かく・よ八ひ・寿(6ウ)」
0153:佐ま越・ひとしれ寿みし里【給】て・あ八れと・
0154:おも本寿・【人】/\・しつま里ぬる・【程】尓・とりわ
0160:やう/\さ可里・寿きて・わつ可なる・こ可个
0161:の・いと・しろき・尓わ尓・う寿く・ゝら可りて・
0193:古えさせま本しき・ことも/こ&こ・か寿/\・【思】・【給】
0229:免あ可し・【給】个れ者・寿のこなと尓・わ可
0231:いそき・をき佐者きて・との井寿可多とも・いと
0235:あ里八て寿や・ゆきちらんなと・さしも
0272:【月日】の・可个越も・み寿・【身】越・やすら
0296:「【身】八・可くて・さ寿らへぬとも・【君】可・あ多
0318:この・【御】可个尓・可くれて・寿くし・【給】へる
0330:のひや可尓・いり・【給】へ八・寿こし・井さりいてゝ・
0424:きこゑ・【給】八す・な里ぬ・[11]あ寿とての・くれ尓八・
0428:寿の・万へ尓・おまし・満いりて・【御身】つ可ら・き
0533:へら寿那ん・【御】万へ尓八・个いし・【侍】里ぬ・【心】
0568:寿てゝ・とふらひ・まひらせんも/ひ〈判読〉・な尓の・可ひ
0576:寿可多・い堂う・や徒し・堂まひて・【月】・
0580:えんと・寿らむ・【一二日】・堂満さ可尓・へ多
0582:するものをとて・み寿・まきあ个て・八
0615:まふても・うらやましくもと・うち寿
0623:「ふる佐と越・三ねの・可寿三八・へ堂つれと・
0650:い可て・とし【月】を・すくさむと・寿らむ登・
0662:寿満の・うら【人】・し本多るゝ・ころ・い徒登・(30ウ)」
0679:者寿・つき勢ぬ・まゝに・お本しこかるれ八・
0683:新・【給】遍り・【御】こと・ぬ支寿て・堂まへ累・
0691:【又】・もとの・【事】く堂ひら可尓・おほ寿・さ満
0699:そひ多らん・【心】ち・寿れと/八&と・可ひなし・いていり・
0708:八りな里/へり=こと〈丁末左〉・【中】/\・ひ多寿らよ尓・なくなり
0717:佐尓・寿こしの・な佐遣あるけしきをも・(33オ)」
0722:寿くし・すく/\しう・もてなし・【給】ひ
0733:しいてさらむ・【御返】も・寿こし・
0781:さ寿る尓も・徒三・ふ可き・【身】の三こそ・【又】き
0784:もし本・多るてふ・寿満の・うら尓て・よろつ・
0792:者可りを・まきつゝ个て・寿み徒きなと・三
0801:【給】て・きこしめ寿・王可や可尓・遣しきめる/き±者・
0814:い徒まて・寿満のうら尓・な可めん・きこゑ
0856:寿る可那なと・の堂満者勢て・【院】の・おほし・
0890:寿こし・可きならし【給】へる可・王れな可ら・
0923:いて・【給】て・堂ゝ寿み・堂満ふ・さ万の・
0947:「【心】可ら・とこよ越・寿てゝ・なく・可りを・【雲】
0969:本・いり・多満者寿
0978:ひぬ・まこと尓・【御】そは・【御身】・者那多寿・おい・
0988:【心】・と満る尓・【大将】・可くて・お者寿と・き
1140:寿免れと・ひ可免る・【心】は・さら尓も・【思】八て
1146:堂まふなれ・あこの・【御】寿く勢
1183:れと・え・おほし寿てしなと・いひ井堂
1240:しなし堂る・いと・を可し・【念】寿の・くと
1256:あ寿可【井】・すこし・う多ひて・【月】こ
1263:寿へくも・あらね八・【中】/\尓・可多八し
1264:も・え・まね者寿・よもす可ら・満とろまて・


■ 「春」の例 ■


『ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「須磨」』の「春」

0007:こともやと・おほしな里て・可の・ま八・
0238:尓し可八なん・れいの・おもはなる・佐
0429:こゑ・【給】ふ・【春宮】・【御事】を・い三しく・志ろ
0514:「いつ可・【又】・【春】の・【宮】この・【花】を・三ん・と
0521:けいれ八・志八し・三ぬ多尓・いとくるし
0537:「さきて・とく・ちる八/る=類・う个れと・ゆく・【春】
0589:よ尓・王可れな八・い可なる・うらに・さらへ・
0620:尓・こし・可多の・【山】者・可みはる可尓て・
0709:なん八・いふ可ひなくて・やう/\・王れくさ・
0710:おひや・ら無・きく・本とは・ち可遣れと・
0712:おほ尓・徒き勢すの三なん・[19]【入道】の【宮】
0713:尓も・【春宮】の・【御事】尓よ里・おほしな个く・
0727:可多尓は・ま可せ須・可つ者・免やくも・
0878:をしく・おほし堂る・【事】・おほ可里・[23]満尓八・
0938:八らひ・【給】へる・【御】てつきの・くろき・ゝ尓・
0989:く尓・あいなく・すい多る・む免とも八・ふね
1040:ま徒る・【入道宮】八・【春宮】の・【御】こと越・ゆゝし
1087:ま・うしろの・【山】尓・志はと・いふ・もの・
1088:ふふるなり个り・めつら可尓て・
1190:な尓の可とん・おほさし・本と尓・徒
1210:満免きて・【我】可・つくれる・【句】を・
1246:【御】らん・うらに・とし・ふらん・さ満なと・ゝ
1268:ゑひの・可那しみ・な三多・そゝく・【春】の・
1275:「ふるさと越・いつれの・【春】可・ゆきて・
1341:そらなり・う三の・おもて八・ふ満を・ひ
1350:【神】・な越・やま・なり三ちて・あ
1365:や三て/三&三・【君】も・いさゝ可・ね・【給】へれ八・



■ 「須」の例 ■


『ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「須磨」』の「須」

0005:き・ことの三・ま佐れ八・せ免て・志ら
0065:王佐となら・うちしのひ・【給】し尓も・
0084:ひさし支・【程】尓・王れぬこそ・あ八れなれ
0088:る・【程】・【何】と・八んへらともまい里きて・む可
0125:【君】も・え・【心】つよくも・ゝてなし・堂ま八
0129:い三しう・【思】・【給】へ・王るゝ・お里・那くの三・いま尓・
0140:てしも・可ゝる・つ三尓は・あ多ら・【侍】里け
0192:こゑ尓て・あけ尓あさ可ら/前あ$、△&け・【思】へ里・き
0194:へな可ら・む本をれ・【侍】・本とも・越し者可ら
0210:そへて・あはれ・徒きせ・いて・【給】ぬる・那こ
0240:者へる・【程】多尓・【御】免・可れせと・【思】を・可ゝ
0253:て・をと徒れも・きこゑ・堂満八・【御】とふ
0264:て・きこえ・【給】者・ま多・ゝのもし支・
0326:堂満者やと・うちくして・おも本し
0331:や可て【月】を・みつゝ・を八・【又】・こゝ尓て・【御物】
0354:【心】越・くら・ものな里遣れなとの(16ウ)」
0371:尓くし・【給】者・いと・可累ら可にあ
0413:れ八・こまか尓は・きこゑ・【給】八・【女】・い
0439:に・あ多里・者へるも・【思】・【給】へ・あ者ることの・ひと
0448:きせ・なま免き【給】へ里・【御山】尓・まいり・
0450:三尓・【物】も・え・きこゑ・【給】八・いみしく・多免
0469:三やしろを・かれと・み王多・本と・ふと
0519:を新満【御返】八/を+八、八し&新・い可ゝ・ものし・者へらむと・(24オ)」
0547:るは・多可き・三し可きとも・伊者・志里越よ
0561:しも・者多・いふ【可】尓も・あら・おもひ志
0644:志徒ま里・【給】・【心】・うつゝなら・くにの・可三も・
0648:堂満ひあ者へき・【人】し・まいらね八・
0659:かきも・や里・多満者・くらされ・堂満
0670:「こ里まの・うら能・三る免も・ゆ可志支
0727:可多尓は・ま可せ・可つ者・免や春くも・
0759:と・おも本・【又】・うち【返】し・なそや・かく・うき・
0765:こな井を・して・を者・【大殿】の・わ可き三
0794:とふし・うしと・【思】し・【心】あやま里尓・【又】・三や
0817:う尓・いつこ尓も・おほつ可な可ら・きこゑ・【給】・[21]【花】
0838:す【所】尓も・を者せ・おほやけさまの・【宮】つ
0861:なら・あちきなき・ものなり个れと・【思】し
0917:さ満尓・よ/=よろつイ・ものおもひ・王れつゝち可くなれつ可(42オ)」
0925:して/八&万・この【世】の・ものとも・みえ・【給】者・志ろ
0983:るい・ひろく・む免可ち尓て・【所】勢可り个れ・(45オ)」
1013:しも・え・多ちと満里【候】八・【宮】こ・者なれ
1045:八しまそ・多のもしけなき・【心】ち・志・
1129:よしきよは・可の・【入道】の・む免越・
1184:里/た&堂・[30]この・む免・すくれても・あらぬ可多ち
1224:しきにも・ひとつ・な三多ならそ・こ本
1277:佐ら尓・堂ちいてん・【心】ち・せ
1289:えし【給】八・【日】・やう/\・さしあ可りて・
1309:くなむとく/後く〈ママ〉・志めや可尓も・あら・可へり・【給】
1317:越/せ〈左濁点〉、む=【軟障也】、う&う・ひきめくらして・お者・その・く尓・可よ
1355:お者・ひ・くれぬれ八・【神】八・すこし・

 
 
 
posted by genjiito at 23:58| Comment(0) | ◎NPO活動
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