2019年02月16日

日比谷で橋本本「若紫」を読む(その9、「障害」と書くか「障碍」と書くか)

 今日の講座での話題の一つとして、昨日の新聞に報じられた、宝塚市でこれまで「障害」と表記していた文字を4月から「障碍」にする、というニュースを取り上げました。
 このことについて、受講生として来ている全盲の尾崎さんに意見を求めました。
 尾崎さんの考えは、自分では読めない文字の話なので、結局はどちらでもいい、ということです。個人的には「障碍」がいいと思うけれども、ワープロなどで音読する時に、あまりたくさんの表記があったらややこしいので、一般的な「障害」でいいのでは、とのことでした。
 参考までに。『目の見えない人は世界をどう見ているのか』(伊藤亜紗、光文社新書、2015年4月)には、次の意見が記されています。

 従来の考え方では、障害は個人に属していました。ところが、新しい考えでは、障害の原因は社会の側にあるとされた。見えないことが障害なのではなく、見えないから何かができなくなる、そのことが障害だと言うわけです。障害学の言葉でいえば、「個人モデル」から「社会モデル」の転換が起こったのです。
 「足が不自由である」ことが障害なのではなく、「足が不自由だからひとりで旅行にいけない」ことや「足が不自由なために望んだ職を得られず、経済的に余裕がない」ことが障害なのです。
 先に「しょうがいしゃ」の表記は、旧来どおりの「障害者」であるべきだ、と述べました。私がそう考える理由はもうお分かりでしょう。「障がい者」や「障碍者」と表記をずらすことは、問題の先送りにすぎません。そうした「配慮」の背後にあるのは、「個人モデル」でとらえられた障害であるように見えるからです。むしろ「障害」と表記してそのネガティブさを社会が自覚するほうが大切ではないか、というのが私の考えです。(211頁)


 この問題は、講座が終わってからの帰りの道々でも、話題になっていました。
 全盲の学生がいる中でこうした話題を考えることは、日常とは違う立場で課題が迫ってくる感覚の中に身を置くことになると思われます。受講生のみなさまにとっても、刺激的なテーマとして考えるきっかけとなったとしたら、これもこの講座ならではの勉強会だと言えるでしょう。

 さて、写本は、37丁裏4行目の「と・むせ可へり」から確認しました。
 問題としたのは、38丁表2行目の「つらく」の「らく」が「弖」(氐)のように見えることです。この「弖」については、8行目の「【給】て」で、「て」の下に削られた文字がある場所にも関係します。テキストとして使っている『国文学研究資料館蔵 橋本本『源氏物語』「若紫」』の印刷版では、この「て」の文字の下には「て」とあり、それが削除されているとしました。しかし、2年前の3月末に私が定年退職する直前の一日をかけて、不明としていた文字をもう一度見直したのです。その結果、この下に書かれていた文字は「て」ではなくて「弖」とすべきであることを確認しました。顕微鏡を使った写真を撮影したので、また機会があれば提示します。
 つまり、書写者はここで、最初は変体仮名の「弖」を書いたのです。しかし、親本をよく見るとそうではなくて「て」だったことから、すぐに「弖」を横にあった小刀で削り取り、その上に「て」と書いたのです。この写本の書写者は、字母に忠実に書写していることがわかる例です。

 今日は、私が翻字したデータをどのように管理しているのかも、お話しました。
 私の手元では、『源氏物語』54巻の翻字データは、エクセルの表形式で運用しています。補訂する時には、当該写本の当該文節のデータを訂正しているのです。
 みなさまには翻字のお手伝いをしていただいているので、そのデータがどのように管理されているのかを見ていただき、今翻字しているものがどのようになっていくのかを実見してもらいました。今は、翻字していただくと、その方に入力もお願いしています。こうした最終形態のデータを見ることで、今後の翻字のやり方の意味が理解していただけると、よりよい翻字データができあがることでしょう。
 それにしても、エクセルの表を見ていると、いかに「変体仮名翻字版」のデータが少ないかがわかります。9割以上は、私が嘘の翻字だったと言っている、旧来の50音図の平仮名による翻字なのです。「変体仮名翻字版」を急がなくてはいけません。
 今春4月からは、気分を一新してこの翻字文庫のデータ群の進展に注力するつもりです。翻字のお手伝いをしていただいている方々と、さらに連携して翻字データベースの構築に取り組みます。変わらぬご協力を、よろしくお願いします。

 日比谷図書文化館を受講生のみなさんと外に出てから、教えられるままに両国を目指しました。相撲取りだったモンゴルの方との面談があるからです。
(以下、つづく)
 
 
 
posted by genjiito at 23:59| Comment(0) | ◎NPO活動
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