2018年12月10日

読書雑記(251)河添房江著『源氏物語越境論』から科研の現状を想う

 河添房江氏の『源氏物語越境論 唐物表象と物語享受の諸相』(岩波書店、2018年12月7日)が刊行されました。

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 本書に収録されている諸論稿の中でも、第三編の3本の論稿は、広く読まれるようになればいいと思い続けていたものです。
第三編 近現代における受容と創造
 第一章 国民文学としての『源氏物語』――文体の創造
 第二章 現代語訳と近代文学――与謝野晶子と谷崎潤一郎
 第三章 翻訳と現代語訳の異文化交流――世界文学へ

 それが、読みやすく整理されてまとまっているのを確認し、一人勝手に安堵しました。
 自分の興味と関心のありようから、与謝野晶子と谷崎潤一郎には思い入れがあります。それ以上に、『源氏物語』の受容に関する問題として、世界各国で翻訳されているものを対照とした研究が広がればいいと願い、折々に機会を得てはその話をしてきました。特に若い方々には、これから取り組む研究テーマの一つとして、問題意識を持っていただきたいと思っていたものです。メインでなくてもいいのです。主食でなくてもいいのです。幅広くものを見る上で、このテーマは大切だとの思いからでした。
 今回、本書の第三編の中でも、特に「第三章 翻訳と現代語訳の異文化交流――世界文学へ」は、現在私が取り組んでいる科学研究費補助金による研究(「海外における平安文学及び多言語翻訳に関する研究」)との関連から、周りにいらっしゃる方々に、ぜひとも読んでくださいと言える章となっています。
 この章は、本書の中では周縁に位置するものです。けっして、メインのテーマではありません。河添氏がおもちの多くのテーマを、側面から支える1つのものでしかありません。しかし、私には、まずはこの章だけで満足をしています。この章が置かれているだけで、河添氏に感謝したい気持ちです。
 さらには、この章の後注で次のような記述があり、これに勇気づけられました。

(1)伊藤鉄也氏の「海外源氏情報」のサイト(http://genjiito.org/)では、『源氏物語』翻訳史として、一八八二年の末松の英訳から、最新の二〇一六年の朴光華のハングル訳の夕顔巻まで、各国の翻訳情報を計二九〇件、挙げている。その他、このサイトでは、『源氏物語』や平安文学の翻訳や国際会議、国際共同研究に関する諸情報やオンライン・ジャーナル(「海外平安文学研究ジャーナル」vol.1.0〜6.0)が提供されており有益である。


 個人的に取り組んでいる地味な調査の報告にもかかわらず、このようにして紹介していただけたことを、ありがたく思います。私だけではなくて、私のまわりで情報収集や資料の整理のお手伝いをしてくださっている多くの方々に、お役に立っているのだということを実感できる、心強い支援となっているのです。
 これまで、自分が論文の書き手であった頃には、このような注記が持つ意義や側面に意識が向いていませんでした。新たな生活の中で、1つの注が意外な研究支援の役割を果たすことを、今さらながらあらためて知らされました。他人さまにとっては、本当に些細なことです。どうでもいいことでしょう。しかし、このようなものの見方ができるようになったことを、自分一人で嬉しく思っています。

 今、この注の中で紹介されている「海外源氏情報」(http://genjiito.org)は、さまざまな問題に巻き込まれ、新しく予定している[海外平安文学情報]に移行できずにもがいているところです。最近は、その状況を、次のブログの記事にしています。

「科研のHP[海外へいあんぶんがく情報]が半歩前進」(2018年11月24日)

「科研[海外へいあんぶんがく情報]のHPが本格的に始動」(2018年11月29日)

 しかし、先週からこのホームページの移築がストップを余儀なくされています。外圧と無理解により、なかなか思うように進みません。

 川添氏の論稿の中の1つの注記から、このサイト「海外源氏情報」(http://genjiito.org)がお役に立っていることを、あらためて実感しました。現在、私を取り巻く周辺で生起する雑音に負けることなく、研究協力者とともに着実に前を見て[海外平安文学情報]のサイトの移築に向かって突き進んでいきたいとの思いを強くしました。

 以上、あまりにも個人的な感懐となりました。この記事がブログである、ということでご寛恕のほどを願います。
 それはさておき、本書の全体像を知るためにも、岩波書店のホームページから目次を引き、拙文の欠を補っておきます。

序 二つの越境――異文化接触とメディア変奏

凡 例

第T部 東アジア世界のなかの平安物語

第一編 威信財としての唐物
 第一章 『竹取物語』と東アジア世界――難題求婚譚を中心に
 第二章 『うつほ物語』の異国意識と唐物――「高麗」「唐土」「波斯国」
 第三章 『枕草子』の唐物賛美―― 一条朝の文学と東アジア

第二編 『源氏物語』の和漢意識
 第一章 高麗人観相の場面――東アジア世界の主人公
 第二章 唐物派の女君と和漢意識――明石の君を起点として
 第三章 梅枝巻の天皇――嵯峨朝・仁明朝と対外関係
 第四章 和漢並立から和漢融和へ――文化的指導者としての光源氏

第三編 異国憧憬の変容
 第一章 平安物語における異国意識の再編――『源氏物語』から平安後期物語へ
 第二章 『栄花物語』の唐物と異国意識――相対化される「唐土」
 第三章 平家一族と唐物――中世へ

第U部 『源氏物語』のメディア変奏

第一編 源氏絵の図像学
 第一章 「源氏物語絵巻」と『源氏物語』――時間の重層化と多義的な解釈
 第二章 「橋姫」の段の多層的時間――抜書的手法と連想のメカニズム
 第三章 「源氏物語絵巻」の色彩表象――暖色・寒色・モノクローム
 第四章 源氏絵に描かれた衣装――図様主義から原文主義へ
 第五章 源氏絵に描かれた唐物――異国意識の推移

第二編 源氏能への転位
 第一章 『葵上』と『野宮』のドラマトゥルギー――葵巻・賢木巻からの反照
 第二章 『半蔀』のドラマトゥルギー――夕顔巻からの転調
 第三章 『住吉詣』のドラマトゥルギー――澪標巻のことばへ

第三編 近現代における受容と創造
 第一章 国民文学としての『源氏物語』――文体の創造
 第二章 現代語訳と近代文学――与謝野晶子と谷崎潤一郎
 第三章 翻訳と現代語訳の異文化交流――世界文学へ


初出一覧
あとがき
索 引

 
 
 
posted by genjiito at 21:14| Comment(0) | ■読書雑記
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