2018年12月07日

メリッサ・マコーミック編著『The Tale of Genji : A Visual Companion』

 ハーバード大学のメリッサ・マコーミック(Melissa McCormick)先生が、ハーバード大学美術館所蔵の『源氏物語画帖』を、プリンストン大学出版社から美麗な美術研究書として刊行なさいました。

181207_Melissa-G.jpg

 日本美術と文化の研究成果が、このように豪華な一書としてまとまったのです。『源氏物語画帖』がフルカラーで自由に確認できるようになったことは、『源氏物語』の受容史のみならず、日本文化史においても画期的なことです。
 本書は、巻頭に解説を置き、絵と詞を左右に配して54図を見開きで掲載し、その絵の詳細な解説を続く見開きで展開する構成となっています。巻末には詳細な索引もあり、利用者への細やかな心遣いがなされています。
 見開きの各画帖には、場面解説(英文)・ローマ字・翻字が添えてあり、わかりやすい『源氏物語』の絵解きに接することができます。

181207_01kiri.jpg

 この画帖の絵は土佐光信らが、詞は三条西実隆などが筆を揮っています。まとまった画帖としては、現存最古のものだと言えます。私は、精密な絵はもちろんのこと、特に詞の力強い文字に惹かれます。

 これまでに、この画帖には3回ほど、間近に接する機会を得ています。直近では、今年の8月にハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「須磨」「蜻蛉」の原本調査でボストンへ行った折に、メリッサ先生のご高配により直々のご説明を伺いながら画帖を拝見することができました。その時のことは、「ハーバードのフォグミュージアムで古写本『源氏物語』の調査」(2018年08月29日)に記録として残しています。

181207_ART-M.jpg

181207_gatyou.jpg

 今回のご著書では、詞の翻字に関して少しお手伝いをしました。本書では、明治33年に平仮名が1文字に統制された時の方針によって、現在一般に流布する五十音の平仮名で翻字がなされています。しかし、もし可能であれば、字母が明確に識別できる「変体仮名翻字版」で翻字をすると、実際に書かれた文字と整合性をもった仮名文字として対照しやすくなります。現行の方式の翻字では、不正確な文字に置き換えられています。実際には「古」と書いてあるのに、それを仮名表記の統一ということで「こ」に置き換えて読むのですから、崩し字の初学者は混乱します。その翻字から、元の仮名文字に戻れないのですから、厳密に言うと嘘の翻字ということになります。ジレンマに陥るところです。
 たとえば、この「桐壺」の「変体仮名翻字版」による翻字は、次のようになります。

古濃【君】の【御】わらは春可た
い登可遍万うくお本せと【十】
【二】尓て【御元服】志多ま婦ゐ
多ちおほしいとな三てかきり
あ類【事】尓古とをそへ佐せ【給】


 実は、今回の翻字のお手伝いをした時に、併せて「変体仮名翻字版」のデータを同時に作成しておきました。何らかの形で、変体仮名交じりの正確な翻字がお役に立てばいいのに、と思っています。

 さらには、解説などを日本語にしてもらえると、英語がわからない私にも親しく読める本となり大助かりです。

 とにかく、『源氏物語画帖』を繙くすばらしい環境が提供されました。日本の古典文学や古典文化に親しめる、道案内の書となるにちがいありません。一人でも多くの方が手に取ってご覧になることを願っています。
 
 
 
posted by genjiito at 23:49| Comment(0) | ■変体仮名
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。