2018年12月06日

キャリアアップ講座(その13)『源氏物語』のくずし字を読む(書写者の交代)

 昨日(12月5日)の京都新聞に、国宝の『源氏物語絵巻』が修復を終え、額面装に改装されていたものを、あらためて本来の巻物装に作り変えて展示されていることが報じられていました。83年ぶりに巻物に仕立て直したとのことです。

 この記事を受けて、今日の社会人講座では、まずは巻物がどのようなものであるのかを、架蔵の巻子を持参して見てもらいました。巻物の表装や大きさ、重さ、長さ、紙質などは、実際に触って見ないとわかりません。とにかく、我が身の五感を使って実感することが大事です。この講座では、その実践活動もしています。

 また、林望氏の『謹訳 源氏物語』を回覧し、その背表紙を外すと現れる造本のおもしろさも、実見してもらいました。書店でカバーを外すことはしないので、これには驚いておられました。
 いつものことながら、たくさんの質問をいただき、私がお答えできる範囲で説明しました。みなさん、知的好奇心が旺盛な方々なので、楽しい意見交換ができます。

 写本を読む本来の講座では、前回が1行半しか見られなかったこともあり、今日はとにかく進みました。10丁裏2行目の「志の者累ゝ」からです。

 順調に字母を確認しながら変体仮名を読み進めて行き、12丁裏に入ったところで書写が不正確なものが目立つ所で立ち止まりました。そして、その見開き左右頁(12丁裏、13丁表)に書き写されている文字の雰囲気が異なることを、時間をかけて確認しました。

 私の意見は、右丁にあたる12丁裏だけは書き手が違うのではないか、ということです。
 その推測の理由を以下に記しておきます。

 12丁表の最後に「とうさい【将】」と書いてから紙をめくって次の裏丁(12丁裏)に「なと」と書き出します。この改丁後に「なと」と書く時に別人とバトンタッチし、そのまま12丁裏を書き写したと思われます。前の丁末で黒々と「とうさい【将】」と書いてあるのに、次の丁の「なと」は墨が薄くなっています。ここにしばらくの時間差があったことは明らかです。書き手の交代の間に少し時間を要した、と思われます。
 次の写真をご覧ください。これは、12丁裏から13丁表に丁が変わる所の3行を抜き出し、画像処理をしたものです。白黒反転して、文字のエッジを明確にしてみました。

181206_edge.jpg

 この写真の右側3行が、12丁裏の最終3行です。この丁末にあたる「堂ゝ【人】さ満尓」と書いた書写者は、次の紙の13丁表を書く時に元の書写者と入れ替わって「おほし可へ里て」と書き始めたのではないか、と考えてみたいのです。左右の文字の形や雰囲気の違いが、この写真だけからもわかります。
 私がよく言う、トイレに行ったのか、来客があったのか、何か用事があったために、一時的に弟子か家族に筆写を交代したのではないか、という想定です。
 この前後の書写状態で確認できるように、丁が変わる時の丁末の文字の濃淡や書写ミスと、次の丁のはじめの文字の墨色や書写ミスが多くなっていることなどが、その書写者の一時的な交代という可能性の高さを見せています。

 写本を読む時には、ただ単に文字を追いかけていくだけでは飽きます。書写されているその現場を思い浮かべながら文字を見ていくことで、書写者が置かれている環境や背景などがいろいろと想像できて楽しめます。そんな楽しさを、どうぞ味わってみてください。新しい写本の読み方につながると思います。
 
 
 
posted by genjiito at 23:56| Comment(0) | ■講座学習
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