2018年10月08日

読書雑記(241)白川紺子『下鴨アンティーク 暁の恋』

 『下鴨アンティーク 暁の恋』(白川紺子、集英社オレンジ文庫、2017年6月)を読みました。アンティーク・ミステリー・シリーズの第6弾です。

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 快調に筆は進んでいます。そして、この巻が一つの折り返し地点となっているようです。

■「椿心中」
 居候で大学准教授の矢島慧に、主人公である野々宮鹿乃は前作で想いを告白しました。その後の鹿乃の心の揺らめきから語り出します。
 「衣通姫」と名付けられた、椿が描かれた振袖にまつわる話です。義兄弟の心中が背景にあり、よくまとまっています。ただ、その落ちた椿が枝に戻るところは、中途半端な処理のように思えました。
 鹿乃への一歩が踏み出せない慧の様子が、たどたどしい表現で語られます。これが、なかなか的確に心の中を読み当てているように思いました。最後は今後の展開を考えてか、どうも煮え切らないままです。【3】
 
 
■「月を隠して懐に」
 着物の柄に関係のある、能の「班女」と下鴨神社の話が意外と展開しなかったので惜しいと思いました。
 鹿乃は慧が怖いと思っていることを考えます。しかし、慧は父との会話の中で、鹿乃とのことを思い直すのでした。
 こうしたくだりで、慧と父の心の交流を描く場面には違和感を覚えます。何か違うのです。その反面、慧の母親は少ない言葉数ながらもよく描けていると思います。【4】
 
 
■「暁の恋」
 軒端の梅という帯と、和泉式部と民俗学が連環して話が展開します。さらには、『和泉式部日記』にまで発展していきます。日本の古典文学の香りが行間から漂って来ます。その和泉式部を巻き込んだ話が、折しも慧から突き放された時だったことと重なり、知人の大学生である石橋春野からのデートを鹿乃は承諾したのです。しかし、回りくどい話の流れを経て、慧は鹿乃に結婚の申込みをする事態にまで、一気に進むのでした。場所は蹴上のインクライン。
 人を好きになった者同士の心の戸惑いや迷いが、爽やかに語られます。着物の話が霞むほどに、行きつ戻りつしながら相手のことを想い合う、純粋な恋愛感情がぶつかり合う、恋物語が出来上がりました。さらには、慧はあれだけ遠ざけて来た父との生活に踏み切ります。そんなに急がなくても、と思うほどに円満な大団円で幕を閉じます。【5】
 
 
■「羊は二度駆ける」
 緩急自在の展開です。
 鹿乃と慧の話が幸せの道を歩み出しました。それと合わせたかのように、鹿乃の兄である良鷹と、その幼馴染である真帆の関係が、友達の一線を越えることになります。
 祟りの話は味付けに過ぎず、新しいカップルを生み出した話に仕上がりました。【4】
 
 
 
posted by genjiito at 19:26| Comment(0) | ■読書雑記
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