2018年09月19日

読書雑記(236)高田郁『花だより みをつくし料理帖 特別巻』

 『花だより みをつくし料理帖 特別巻』(高田郁、ハルキ文庫、2018年9月)は、これまでの10巻を懐かしく思い出しながら読みました。

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 登場人物たちをはっきりと覚えています。それぞれの巻の内容については、以下の記事にゆずります。

(1)「読書雑記(21)高田郁『八朔の雪 みをつくし料理帖』」(2010年11月25日)

(2)「読書雑記(22)高田郁『花散らしの雨 みをつくし料理帖』」(2010年11月26日)

(3)「読書雑記(23)高田郁『想い雲 みをつくし料理帖』」(2010年12月02日)

(4)「読書雑記(24)高田郁『今朝の春 みをつくし料理帖』」(2010年12月04日)

(5)「読書雑記(33)高田郁『小夜しぐれ みをつくし料理帖』」(2011年04月22日)

(6)「読書雑記(42)高田郁『心星ひとつ みをつくし料理帖』」(2011年09月09日)

(7)「読書雑記(48)高田郁『夏天の虹 みをつくし料理帖』」(2012年04月09日)

(8)「読書雑記(74)高田郁『残月 みをつくし料理帖』」(2013年07月26日)

(9)「読書雑記(94)高田郁『美雪晴れ―みをつくし料理帖』」(2014年02月20日)

(10)「読書雑記(105)高田郁『天の梯 みをつくし料理帖』」(2014年08月24日)

(補1)「江戸漫歩(74)『みをつくし料理帖』の舞台を歩く」(2014年02月23日)

(補2)「江戸漫歩(85)『みをつくし料理帖』の爼橋と千代田図書館」(2014年09月05日)


 この『みをつくし料理帖』シリーズが2014年8月に完結してから丸4年。本編で語られなかったことや、その後のつる屋の面々の話です。いわば外伝とか番外編と言われるものであり、『源氏物語』で言えば「並びの巻」にあたるでしょうか。例えば、『源氏物語』の「帚木」には並びの巻として「空蟬」「夕顔」があり、「若紫」には「末摘花」がそれにあたると考えればいいかと思います。人気を博した物語は、読者の要望からこのように隙間を埋める作品が生まれるのです。今回は、作者である高田郁自身が4編を書き足しました。過去を振り返ると、今後は別の作者が現れてこの「みをつくしシリーズ」を書き継ぐことも想定されます。物語の生成過程を見せてくれる好例だと思います。その意味では、『源氏物語』のように物語が長い年月の中で成長発展していく様を現代において追体験できたことは、幸いな時代に身を置いたと言えるでしょう。
 
■「花だより 愛し浅利佃煮」
 江戸から大坂にいる澪に会うために、つる屋に縁のある人々が東海道を下ります。しかし、いろいろなハプニングもあって、箱根から江戸に引き返すことになります。相変わらず、爽やかで人の想いが伝わる話になっています。【4】
 
■「涼風あり その名は岡太夫」
 一風変わった妻乙緒の話です。こうした女性を描けるのは、作者の大いなる成長です。
 小野寺数馬の妻となった乙緒は、夫が過去に惚れていた女料理人、澪のことを知ります。そして、自由に生きる道を選ばせる夫だったことに思い至るのでした。さらには、醍醐天皇も好まれたというわらび餅が、義母とその息子である夫を間に挟んで、つわりに苦しむ乙緒を助けることになります。ひいては、心を開かなかった夫婦が、互いを理解し合うことになるのでした。これまでになかった、高田郁の新しい作風の完成です。【5】
 
■「秋燕 明日の唐汁」
 舞台は大坂高麗橋に移ります。澪の幼馴染だった野江は、唐高麗物を扱う淡路屋を営んでいます。主力の品は眼鏡。方や澪は、道修町に源斎と住み、北鍋屋町に料理屋みをつくしを出しています。二人の往き来は、幼い頃のことや、天涯孤独で江戸に出てからを知る読者を安心させます。
 本話は、野江の婿選びが主題です。その中で語られる、吉原での思い出語りは読ませます。そして最後に辰蔵に対する「嫌だす」が効いています。【5】
 
■「月の船を漕ぐ 病知らず」
 大坂に疫病ころりが蔓延します。源斉も病の床に伏します。澪の料理屋みをつくしも店じまいです。源斉に心尽くしの料理を出しても、まだ食べてもらえません。
 「月も無く、星も無い。暗い暗い闇の海で、船を漕いでいる……」(267頁)とあり、「生きて生きて、生き抜くことだけを考えろ」(268頁)という言葉が、私にも思い当たることが幾度もあっただけに染み渡りました。人の思いやりが静かに伝わる話です。
 澪は、姑に教えられた江戸の味噌汁で源斉に活力を与えます。二人で煌々と輝く月を観ながら語り合う場面は秀逸です。本話も次の話が待ち遠しくさせる趣向となっています。ぜひとも、大坂四ツ橋での料理屋みをつくしの話が続くことを、今から楽しみにしています。ただし、特別付録の「みをつくし瓦版」によると、特別巻の後の続編の予定を聞かれた作者は、次のように答えています。「名残惜しいのは私も同じですが、この特別巻ののちは、皆さまのお心の中を、澪たちの住まいとさせてくださいませ。」(309頁)【5】


posted by genjiito at 12:46| Comment(0) | ■読書雑記
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