2018年10月31日

清張全集復読(24)「共犯者」「武将不信」「陰謀将軍」

■「共犯者」
 かつての共犯者が没落し、成功している自分を狙って接近しているという妄想に駆られます。その共犯者から脅迫されることを怖れる人間心理を巧みに突いて、意外な展開へと導きます。
 雇われた通信員役の男の動きに、不自然さと無理があります。もう一捻りほしいところです。【3】
 
初出誌:『週刊読売』(1956年11月18日)
 
※『松本清張全集 36』(文藝春秋社、1973.2.20)の巻末に収載されている著者自身による「あとがき」には次のようにあります。
 奈良の町に泊まった。ヤミ成金らしいのが向かい側の立派な旅館で遊んでいて三味線が賑やかに鳴っていた。虱のいそうな汚ない部屋からそれを眺めていた。同じ部屋に箸の外交員が泊まっていた。−経験といえばそれだけのことである。だが、このときほど黙阿弥の「鋳掛松」の心境に親近感を持ったことはなかった。いうまでもなくこの芝居は、鋳掛屋松五郎が両国橋の上から隅田川を下る屋形船のドンチャン騒ぎを見て、「あれも一生、これも一生。同じ一生なら太く短く」と心を変え、商売物のしらなみを川の中に投げこむという筋である。白浪物としては動機に説得力がある。(544頁)

 
 
 
■「武将不信」
 山形の最上義光は聡明だが小狡い次男を家康に差し出しました。家康は可愛がります。その次男が原因で、家督を継ぐはずの長男が殺されます。すべてが親と背後にいる家康の仕業です。
 父親が息子にかける思いの揺れ動きについて、丹念に描きます。家康に忠誠を尽くした義光。しかし、家康はその忠誠心をも踏み躙る冷徹さを見せます。清張の歴史と人間を見る鋭い目が伝わって来ます。【5】

初出誌︰『キング』(1956年12月)
 
 
 
■「陰謀将軍」
 ジッと耐える第15代将軍足利義昭と、それを支える細川藤孝を描きます。
 信長に絡め取られていく自分を、義昭は忸怩たる思いで見つめます。その心情が丹念に語られていくのです。人の心が読み解かれ、書き綴られているのです。
 自分に力がないことを思い知った義昭は、足利将軍の名を利用して、信長を袋叩きにすることを画策するのです。義昭の陰湿な工作はさらに進展します。
 しかし、自分を助けるはずの武田信玄が亡くなると、我が身に黒い気配を感じ出します。清澄独自の黒い雲です。
 義昭が、何か眼に見えぬ敵を感じたのは、このときからであった。信長などよりは、もっと怖ろしい、抵抗出来ぬ、絶望的な敵であった。どのように藻掻いても、所詮はうすら笑って、壁のように前面に立ち塞がる運命的な何かである。それは生涯のどの辺かに狡くひそんでいて、その気配で、いつも人間にふと前途の不安を予感させる黒い物であった。(319頁)

 義昭謀反を知った信長の反応は早いものでした。すでに、腹心だった藤孝は寝返っています。兵は持たなくとも陰謀がある義昭は、信長への反抗をし続けるのです。信長がしだいに苦しむのを楽しむようになります。義昭の妄執をみごとに描いています。【5】
 
 
初出誌:『別冊文藝春秋 55号』(1956年12月)
 
※メモ:「紫宸殿」に「ししいでん」とルビを振っています。故事に精通した清張らしい一面が確認できます。
 
 
 
posted by genjiito at 22:15| Comment(0) | □清張復読
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