国の重要文化財に指定されている、『源氏物語』「鈴虫」巻の原本を熟覧するためです。これは、ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』の「須磨」巻及び「蜻蛉」巻と兄弟の本なのです。かつては、日本で一緒に一そろいの『源氏物語』として、仲良く組まれていた写本たちです。それが、「須磨」と「蜻蛉」の2冊は海を渡り、「鈴虫」だけが日本に残ったのです。
この「鈴虫」については今から3年前に、『国立歴史民俗博物館蔵『源氏物語』「鈴虫」』(伊藤鉄也・阿部江美子・淺川槙子 編著、新典社、2015年10月)としてカラー版で刊行しました。その後、再確認すべき箇所がいくつか見つかり、また今月末にアメリカのボストンにあるハーバード大学へこのツレの本の調査に行くこともあり、この時点で原本調査をすることにしました。
今回は、この鎌倉期の古写本の復元に挑戦しておられる、書家の宮川保子さんも一緒に来ていただきました。宮川さんは復元本を作成中です。と言っても、紙漉きの調達から装飾の工程もすべて御自分でなさっています。そして、多くの手間をかけて作り上げた紙に、鎌倉時代の『源氏物語』の本文を臨書なさるのです。その制作過程のものを今回は持ち込み、原本と照合しながらの緻密な調査をしました。
次の写真の上は、雁皮を叩いて光沢を出した上で、それに丁子を振りかけて型押しをした料紙です。下が、墨流しを施した料紙にハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「須磨」の巻頭部分を臨模したものです。書写が終わると、料紙の四囲は裁断などをして17センチ四方の枡形本に仕上げることになります。
拝見するのが、700年以上も前に書写された重要文化財の写本なので、緊張しながら熟覧しました。学芸員の資格を持っていることが、こんな時には大いに役立ちます。
今回、熟覧調査のお世話をしてくださった小倉慈司先生は、昨年まではご一緒に教授会に出席していた仲間でもあります。ご高配に感謝いたします。
今回、原本の調査をしながら、宮川さんに教えていただいたことを忘れないように書き出しておきます。
歴博本「鈴虫」の実見メモ
(○付き項目を追補)
・料紙は雁皮を用いている
・紙は打って薄く丈夫にしている
〇打ち紙は、紙を滑らかにし、つやが出る
・用紙の装飾には丁子ではなくてベンガラを入れているためか赤く見える
・料紙への吹き付けは、網を使ってブラッシング
・装飾の料紙を作るのに1枚1時間はかかる
〇墨は上質の青墨(松煙墨)
〇墨に水を加えると青い色がかった【松煙墨 】になる
〇現代の青墨は顔料の青を加えている物も多い
〇鈴虫は松煙墨で書かれ、墨流しも松煙墨
・雲平の巻筆のような筆を使っているようだ
・書写スピードは遅い
(宮川保子さんからのご教示により追補/2018年8月4日正午)
今月末にハーバード大学から帰ってきてから、現存する『源氏物語』の中では最古だと思っている、この鎌倉期の『源氏物語』3冊の実態を、あらためて報告する予定です。
明日は、日比谷図書文化館で『源氏物語』の講座があります。
そのため、今夜は近くの銀座に止宿しています。
近くの築地本願寺では、71回になる「納涼盆踊り大会」が賑やかに開催中ということもあり、大江戸助六太鼓の威勢のいい音が響き渡っています。
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