2018年09月09日

清張全集復読(20)「調略」「箱根心中」「ひとりの武将」

■「調略」
 毛利元就の巧みな諜報戦が語られます。元就の物の見方や考え方が活写されているのです。
 陶晴賢を厳島におびき寄せて葬り、次に尼子晴久を。
 元就を通して、人間の心の中を冷静に解析しています。【2】
 
初出誌:『別冊 小説新潮』(1956年4月)
原題:『戦国謀略』
 
 
■「箱根心中」
 従兄弟同士という関係が、男女の気持ちを微妙に近づけています。そして、お互いの結婚相手への満たされないものが、自然と気持ちを共有されるようになったのです。そして箱根へ。しかし、タクシーの事故で予定通りに日帰りできなくなり、2人の想いと行動が狂い出します。
 抑制された筆致で、自らを追い込んで行く男女が、会話を通してその心の内が描かれています。抑え込んだ、淡々とした口調と展開がうまいと思いました。【3】
 
初出誌:『婦人朝日』(1956年5月)

※『松本清張全集 36』(文藝春秋社、1973.2.20)の巻末に収載されている著者自身による「あとがき」では、「情死はいっさいの世間的な抵抗が面倒臭くなる結果ではなかろうか。その面倒臭さが虚無に通うようである。」(542頁)とあります。
 
 
■「ひとりの武将」
 信長に仕える2人の若者。歳が同じということからくる対抗意識が、巧みに物語の展開に関わっていきます。秀吉に付くか家康に付くかで、この2人の運命がわかれます。その過程が、戦乱の中を生き抜く2人を通して炙り出されるのです。
 日本アルプスを横断する判断と決行が圧巻でした。この話は、人間の末路を思わせます。秀吉の姿が遠くに見えるだけ、という設定はうまいものです。【4】
 
 
初出誌:『オール讀物』(1956年6月)
 
※『松本清張全集 36』(文藝春秋社、1973.2.20)の巻末に収載されている著者自身による「あとがき」には次のようにあります。
「ひとりの武将」は佐々成政のことである。これも「腹中の敵」(第35巻所収)に登場した柴田勝家や丹羽長秀と同じように秀吉の被害者の一人だ。秀吉と佐々成政との関係は、同じ年に書いた「陰謀将軍」における足利義昭と信長の関係にも似通っている。新しい勢力者に絶えず抵抗しながら滅びて行く旧い人間の形をここに見るのである。成政は居城富山から雪のアルプスを越えて松本に抜け、浜松に行って家康の味方を誘うのだが、家康動かず、彼はむなしく同じ路を引きかえし、ふたたび雪の北ア越えをして帰る。最後は熊本の大名になるが、土豪一揆の鎮圧に失敗し、秀吉から死を命じられるのである。これくらい一生空回りをした武将も珍しく、この男から人間の努力の虚しさを教えられたような気がする。成政の通った黒部越えの下にはいま黒四ダムが完成している。前から誘われているので一度そこに行き、かたがた成政の"壮挙"の跡を見たいと思っている。(542頁)

 
 
 
posted by genjiito at 19:49| Comment(0) | □清張復読
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