2018年06月16日

日比谷で橋本本「若紫」を読む(2018年度-その2、異文を確認)

 相変わらず、バタバタと上京です。今日は不安定な天気のため、富士山は雲に取り囲まれていて見えません。新幹線の車窓からこの富士山を見ることは、楽しみの一つとなっているのです。
 もっともそれよりも今日は、新幹線の中で乗客に切りつけられて死傷者を出した事件が頭を離れません。つい、同じ車輌に乗っておられる方を見回してしまいました。京都から名古屋までは、辺りに気を配りながら座っていたのです。
 無事に東京に着き、新橋で降りると、駅前では恒例の大駒での大盤将棋大会をやっていました。

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 平和だなと実感しつつ日比谷公園に入ると、アフリカを中心とした国々のイベントをやっていました。ウガンダの方々の乗りは楽しく拝見しました。

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 日比谷図書文化館の前では、多くの人がスマホを片手に、ポケモン探しに熱中しておられます。まだブームは続いていたのですね。私はすっかり醒めていたので、かえって異様な光景に見えました。

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 日本は平和だなという思いを強くしました。世界の情勢を見聞きする中で、これでいいのかなという思いも胸を過ぎります。しかし、私などがどうのこうのと言える筋合いではないので、それ以上には考えないことにして館内のホールに入りました。
 地下のレストランで食事をしながら、科研やNPOでさまざまな形で支えてもらっているAさんと、今後の打ち合わせをしました。難問山積の折でもあり、話は尽きません。4階の事務室まで来てもらい、今日配布する資料のホッチキス止めの作業を手伝ってもらいながら、さらに話は延々と続きました。

 今日の講座では、いつものような長い前置きは控え、京都で作られている筆のことと、元号には漢籍だけではなくて和書から採用される可能性があることなどをお話しました。そうしたことは早々に切り上げ、2時間のほとんどは写本を読むことと、異文を確認することに専念しました。
 例えば、次のような例です。引用した17種類の写本の略号は、以下の通りです。

橋本本・・・・底本
 大島本[ 大 ]
 中山本[ 中 ]
 麦生本[ 麦 ]
 阿里莫[ 阿 ]
 陽明本[ 陽 ]
 池田本[ 池 ]
 御物本[ 御 ]
 国冬本[ 国 ]
 肖柏本[ 肖 ]
 日大三条西本[ 日 ]
 穂久邇本[ 穂 ]
 保坂本[ 保 ]
 伏見本[ 伏 ]
 高松宮本[ 高 ]
 天理河内本鉛筆なし[ 天 ]
 尾州河内本[ 尾 ]

ゆかす[橋=中]・・・・052539
 とけす/け$け〈朱〉[大]
 とけす/す〈改頁〉[尾]
 とけす[麦阿陽池御国肖日穂保伏高天]


 ここで確認できることは、橋本本と中山本は「ゆかす」となっていて、それ以外のすべては「とけす」となっていることです。「ゆかず」は「心が晴れない」、「とけず」は「打ち解けない」という意味です。まったく異なる語句なのです。

 次はもっと複雑に入り組んでいます。

ナシ[橋=中]・・・・052582
 まみ[大麦阿陽池御国肖日穂保伏高天]
 まみ/見$〈削〉み、み=み〈削〉[尾]
いと[橋=全]・・・・052583
はつかしけなりまみなと[橋]・・・・052584
 はつかしけなるまみなと[中]
 はつかしけに[大麦阿陽池御国肖日穂保伏高天尾]
けたかう[橋=大中阿池国穂保伏尾]・・・・052585
 けたか[麦]
 気たかふ[陽]
 気たかう[御肖日高天]
おかしき[橋]・・・・052586
 をかしき[中]
 うつくしけなる[大麦阿陽池国肖日穂保高天]
 ゝつくしけなる(うつくしけなる)[御伏尾]
ありさまなり[橋=中]・・・・052587
 御かたちなり[大陽池御国日穂伏高天尾]
 御かたち也[麦阿肖保]


 「まみ」に注目すると、傍記が本行の本文に混入したことが想定できます。ただし、証明の手続きがややこしいので、ここでは省略します。
 また、橋本本と中山本は「おかしき御ありさま」で、それ以外のすべては「うつくしげなる御かたち」です。ここでも、「愛らしい」と「美しい」という意味の違いがあります。
 こうした異文が伝わって来ている理由を、私なりの解釈で説明しました。
 一言でいうと、平安時代から元々2つの物語本文が伝わって来ていた、ということと、傍記されていた字句が本行の本文に混入した、ということに尽きます。
 丁寧に説明したつもりなので、受講生のみなさまには伝わったと思います。
 さらには、『源氏物語』の異文の諸相がわかるようにと思って、『源氏物語別本集成』と『源氏物語別本集成 続』を回覧し、さまざまな本文が伝わっていて、なおかつその翻字が非常に遅れていることもお話しました。

 講座が終わると、有志の方10名と一緒に有楽町駅前に移動して、テキストである橋本本を現代語訳する勉強会となりました。
 これまでは、「わらわやみ」をどう訳すかで止まっていました。今日はさらに進み、「あな、かしこや」は「ああ、畏れ多い」でいいのか、で議論百出。「うちゑみつつ」は「微笑みながら」よりも「にこやかに」の方がいいのではないか、などなど意見や話題が尽きません。果ては、「さるべきふんつくりて」は、「しかるべき護符の分を作って飲ませ」では意味がわからないので、何を作って飲ませたのかをもっと調べよう、ということになりました。
 結局は、また来月続きを、となって、散会となりました。
 毎月上京し、こうしてさまざまなことをお話しし、一緒に考えることは本当に楽しい時間となっています。時の経つのを忘れて、とはこうしたことを言うのでしょう。恵まれた環境で『源氏物語』を一緒に読む仲間がいることに、感謝しつつ最終の新幹線で帰洛の途につきました。

 明日は、大阪観光大学で私の科研(A)の研究会があります。『源氏物語』をビルマ語に訳された方や、『更級日記』をハンガリー語訳なさった方、中国からは『源氏物語』の中国語訳に関する発表をしに来てもらえます。これ以上にない充実した内容の研究会になることでしょう。
 みなさまに感謝しての日々となっています。
 
 
 
posted by genjiito at 23:57| Comment(0) | ◎NPO活動
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