主人公である野々宮鹿乃が管理している着物に秘められた、秘密や謎を解く物語です。全編、少女好みというのでしょうか、穏やかな空気に包まれた話が続きます。若い読者は、その居心地のよさに惹かれるのでは、と思われます。
■「星の糸」
奈良の三輪山伝説を背景にする物語です。ただし、伝説に深入りはしません。厚みが出るのに残念です。着物の柄が糸巻に鱗紋で、その糸が切れていたことから展開します。
その合間合間に、鹿乃と慧のほのかな恋心が適度に配されています。これが薄味なので、読者に少女を意識した構成のようです。
洛中の市内観光も、少しだけ楽しめます。
もっとも、後半の話題がギリシャ神話になるところから、本作の話題とうまくつながりませんでした。これも残念。
デザートとして出てきた、果実の入っていないゼリーのような作品です。食感だけが残る話でした。【2】
■「赤ずきんをさがして」
京都の壬生での着物の話から、次に奈良の生駒へ。自分に関わりのある土地が出てくるので、つい読み入ってしまいます。話の舞台を知っているというのは、物語を読む上では大きなウェイトを占めます。
慧の父と、御所北にある大学の構内で出会います。気まずい雰囲気が中途半端です。もっと語る言葉があれば、と思いました。
全編、何気ない話の中で、温かな人間関係は伝わってきました。【3】
■「雪花の約束」
内気な春野君。鹿乃に心惹かれながらも、ぎこちなく自分の想いを小出しにして関わろうとする気持ちがよくわかります。ちょっとした嘘をつくことも。作者の身近なところに、こんな人がいるからでしょうか。男の子の心理を読み解いています。それに対する鹿乃は、幼い頃から一緒に暮して来た慧が好きです。鹿乃の言葉と行ないは、あまりよくは描けていないように思いました。作者は、女心の分析よりも、男心をよく摑んでいるように思います。最後の、慧と父との場面がいいと思いました。
雪の話に関連して、鈴木牧之の『北越雪譜』の話が詳しく紹介されます。この牧之の研究をしている、インドのハイデラバード英語外国語大学のタリクさんの顔が浮かびました。こんな作品に紹介されているよ、と。【3】
■「子犬と魔女のワルツ」
無意識に紙面にプリントされた文字を追っていただけで、お話の内容はほとんど入ってきませんでした。なかなか得難い体験です。私に何があるのか。作者に何があったのか。無色透明な読後感だけが残りました。【0】
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