2018年06月05日

清張全集復読(17)「張込み」

■「張込」
 「過去が牙をならして立ち現れて女を追い詰めるのだ。」(509頁)という表現が気に入りました。
 九州の一角で平穏な日々を送る家庭を、向かいの旅館から張り込む一人の刑事。後妻の動きを丹念に追います。逃亡した犯人からの連絡があるはずだと。しかし、別れて3年。人妻になった女に男は未練があるのか、と刑事は逡巡するのでした。
 のどかな日常生活の情景から、突然鄙びた山の中の温泉地に移り、緊迫感が増して行きます。
 うまい筆の運びです。そして、心憎い結末です。まさに、清張の等身大の作品です。【5】

 なお、監督:野村芳太郎、脚本:橋本忍のコンビで映画化(1958年1月公開)されたものは、私も何度も見ました。横川さだ子役は高峰秀子でした。ドラマは、これまでに12回も製作されています。それぞれのさだ子役を添えておきます。
1959年版(山岡久乃)/1960年版(山岡久乃)/1962年版(福田公子)/1963年版(高倉みゆき)/1966年版(中村玉緒)/1970年版(八千草薫)/1976年版(林美智子)/1978年版(吉永小百合)/1991年版(大竹しのぶ)/1996年版(国生さゆり)/2002年版(鶴田真由)/2011年版(若村麻由美)

 
初出誌:『小説新潮』(昭和55年12月)
 
※『松本清張全集 35』(文藝春秋社、1972.7.20)の巻末に収載されている著者自身による「あとがき」によると、次のようにその背景を詳しく語っています。今一般的にイメージされている松本清張の始発点となる作品だと言えるでしょう。
 二十九年夏、ようやく練馬区関町一丁目に借家を見つけ、九州から一家を呼んで初めて家を持った。このときに書いたのが「張込み」である。私は推理小説は以前から好きだったが、いわゆるトリック本位の絵空ごとの多い小説に慊らないものがあり、ここに倒叙的な手法でそれらしいものを書いた。もっとも、これを書いたときはこれが推理小説だとは考えていなかったが、今ではこの作品が私の推理小説への出発点だとされているようである。張込みの刑事の眼から見た一人の女の境涯というものが、私の意図だった。題材は銀座の雑貨商殺しの新聞記事だが、純然たる小説である。後に橋本忍氏が脚本を書いてくれて映画で評判になった。(529頁)。

 
 
posted by genjiito at 21:00| Comment(0) | □清張復読
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