2018年06月01日

読書雑記(228)松 樟太郎『究極の文字を求めて』

 『究極の文字を求めて』(松 樟太郎、ミシマ社、2018年6月3日)を読みました。

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 著者は、中学2年生の時から文字を作ることに興味を持っていたそうです。それが嵩じて、この本をまとめるに至ったとか。

「すべての文字を自分オリジナルなものにして、自分だけの究極の文字体系をつくってやろう」と思い立ち、ひたすらその作業に没頭したのです。(1頁)


 そういえば私も、小学3年生の時、少年探偵団ごっこをしていて、友だちといろいろな暗号や秘密の文字を作りました。みんなそうだったのだ、と微笑ましく思いながら読み進めました。

 この筆者がいいのは、以来20年経っても、いまだにその夢を追いかけていることです。筆者は、次のように言います。

 つまり、文字は「変化」あるいは「進化」していく。実際、私の自分文字ですら、進化していったのです。
 だからこのバカな試みを公開することで、人類における文字の変遷を知るための貴重な資料となる。なるかもしれない。なったらいいな。なると思うのは勝手だろ―。そんな強い願いを込めて、ここに今「究極文字プロジェクト」をスタートさせようと考えた次第です。
 今まで私が見た、知った、学んだ文字を紹介しつつ、その「いいところ」を抽出し、組み合わせて「究極の文字」を作っていきたいと思います。我ながら書いていて「本当にできるのか?」と思いますが、まぁそのへんは騙し騙しやっていきたいと思います。(3頁)


 さて、さまざまな文字の話が、おもしろおかしく展開します。そこで引かれる文字の形を見ながら、筆記体と印刷体の違いはないのだろうか、また、フォントという字体間に違いはないのだろうか、と思いました。

 さまざまな言語における文字の形にこだわり、自らボケとツッコミを入れながら軽妙洒脱に語り続けていきます。そして、世界中のおもしろおかしい文字にまつわる話が展開します。飽きません。時々言葉遣いが低俗に響くことは無視しましょう。

 文字が書かれた媒体について、興味深い言及があります。ヤシの葉に文字を書いたという話です。

 本当かウソかわかりませんが、スリランカで聞いた話によれば、もともとシンハラ語はヤシの葉に書かれていたそうです。いかにも南国らしい話ですが、このヤシの葉は繊維の関係で、まっすぐ線を引くと葉が切れてしまう。だから自然と丸みを帯びていった、とのことなのです。
 なるほどシンハラ文字は、葉っぱの上にも書けるというフレキシビリティを持った文字だったのです。(17頁)


ミャンマー文字はその声調をしっかりと表すことができるが、その声調を示す文字がまた丸かったりして、全体の丸々しさをさらに増している。ちなみにシンハラ文字と同じく、丸くなった要因は「ヤシの葉に書かれていたから」らしい。(104頁)


 この植物に文字を刻むということについては、ミャンマーのネーピードーにある国立図書館で見た、パームリーフと糸罫の話「経典を書写する前に使う横長の木枠と「糸罫」のこと」(2018年03月11日)で報告しています。

 ミャンマーの文字は、一部好事家の間では「視力検査文字」と呼ばれているそうです。確かに、ミャンマーに行った時に、私もそのように見えました。その文字が並んでいる文字列は、みたらし団子だと思ったらいいでしょう。

 タミル文字の中に日本語の平仮名の「あ」とそっりくな文字が紹介されています(160頁)。次の写真の左側の文字です。ただし、これは「イ」と読む文字だそうです。

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 上の写真の右側の文字は、著者が「究極の文字」として最後にあげるものです(182頁)。
 おもしろおかしい話を堪能していたのに、突然これはないと思いました。
 楽しく読んで来て、最後の「ひらがな」と「漢字」の項目で急激な失速感が伝わって来ました。さらに、最後の「おわりに」で、ガックリ。それまで快調に、軽快に走って来た自転車が、もうすぐ家の前だといところで突然、変速歯車からチェーンが外れて空回りしだした感触が脚に来ました。そのため、本書の評価は【2】。ただし、最後の13頁分はなかったことにすると【4】。

 さまざまな文字が、次から次へと出てくるので、参考までに目次を掲出します。
 それぞれの文字の形を確認する時に、役立つかと思います。

第1章 中二病的とんがり文字vs女子高生的丸文字
  ・世界一危険な文字/チベット文字 8
  ・ナイフみたいに尖っては/ベンガル文字 12
  ・網から転げ落ちる文字/シンハラ文字 16
  ・丸から始まり丸に終わる/タイ文字その1 19
  ・「あいつ、四角くなっちまったよな」
    /パスパ文字・モンゴル文字 22
第2章 どこで切るか、それが問題だ
  ・インド棒/デーヴァナーガリー文字 28
  ・さらばインド棒/グジャラーティー文字 32
  ・かわいいから許す/オリヤー文字 35
  ・チェック済み/テルグ文字 38
  ・文字は踊る/クメール文字 42
第3章 古代の文字はロマンの香り
  ・コケコッコー/ヘブライ文字 46
  ・モアイを出せモアイを/ロンゴロンゴ文字 49
  ・横顔に恋をして/マヤ文字その1 52
  ・自由にもほどがある/マヤ文字その2 56
  ・孤高の原始(風)文字/ティフィナグ文字 60
第4章 母音をどう表すか問題
  ・嫁なのか、闇なのか/アラビア文字 64
  ・文字は転がる/カナダ先住民文字 67
  ・豚の鼻と火星人/ゲェズ文字 71
  ・細川たかしを表記できるか?/ギリシャ文字 76
  ・怪音波を発しがち/突蕨文字 79
第5章 そんなルール、ありですか…?
  ・ダイイングメッセージ/オガム文字 84
  ・そこを取るんだ!?/ターナ文字 88
  ・省略はきちんと示そう/タイ文字その2 91
  ・笑う牛/ブストロフェドン 94
  ・赤面するほどに流麗な/ジャワ文字 97
第6章 何かに似ている
  ・視力検査/ミャンマー文字 l02
  ・リーゼントブルース/シリア文字 105
  ・雨水をムダなく溜める/アルメニア文字 108
  ・UFOキャッチャー/グルムキー文字 112
  ・蚊取り線香を吊るそう/ソヨンボ文字 116
第7章 文字で遊べ!
  ・カンバンが読めません/ルーン文字 122
  ・振り向けばそこに牛/ヒエログリフ 126
  ・思いのままにピックアップ/チェロキー文字 130
  ・偽古代文字を作ろう/ハイリア文字 134
第8章 オリンピックとか、国旗とか
  ・滑る文字/グルジア文字 140
  ・幻の文字を探せ!/ロシア文字 143
  ・ゴマ粒ほどの違い/キリル文字(ウクライナ語) 147
  ・文字じゃないよ、○○だよ/ハングル 150
  ・世界はもっと文字を使うべき/国旗 153
第9章 身のまわりの文字たちの起源
  ・文字兄弟/タミル文字 158
  ・世界征服を企む文字/ラテン文字 162
  ・これも文字と言えば文字/数字 167
  ・かな導入のご提案/ひらがな 170
  ・トリ情報の流出/漢字 178
おわりに 181

 
 
 
posted by genjiito at 23:58| Comment(0) | ■読書雑記
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