そのお経を一枚の葉に書く時に使われる道具の説明の時、木枠と糸と黄色の水の役割がよくわからなかったので、しつこく何度も質問してしまいました。糸を使って、書写する書式を揃える道具についてです。
特に、黄色の色水を、
(1)どの段階でパームリーフにかけるのか?
(2)糸のどこへかけるのか?
ということがよくわかりませんでした。色水で黄色いベルト状の線を引き、そのベルトの幅の上に文字を刻むことにも説明が及んだからです。
私の頭の中には、宮内庁書陵部所蔵の書写道具である「糸罫」が説明を聞いている最中から点滅していたのです。
通訳の方を入れてのやり取りの末、以下のことがわかりました。その場での私の理解に基づくことなので、間違っていたり、勘違いしていたらご教示をお願いします。
一枚のパームリーフと、数本の糸を左右に張り渡した長方形の木枠を用意します。
木枠の内側に張った糸に、黄色の水を吹きかけます。糸に染み込んだ黄色が乾かないうちに、パームリーフの上に、その木枠を糸とリーフの位置に注意して被せます。
すると、黄色に染まった糸がリーフの表面に薄い黄色の直線を数本転写します。
何本かの黄色い直線が転写されたリーフを、別の「WRITING TABLE」という道具の先端の柔らかな面に押し付けて、先ほど引いた線をガイドラインとして、筆記具で文字を刻んでいきます。
文字を書き終わると、線は植物性の色素なので、拭けば消えるということでした。
この道具の左下に置かれていた白黒写真を、Photoshopを使って補正すると、その文字を刻印する作業の様子がよくわかります。
文字が刻まれたリーフは、こんな状態になります。
これらをまとめ、穴を開けて糸を通して綴じられます。あるいは、穴はあらかじめ開いているのかもしれません。
文字を一列に揃えて書く時に使う道具は、日本にもあります。
私が古写本を読む時によく例に出す「糸罫」がそれです。日本の「糸罫」については、『源氏物語 千年のかがやき 立川移転記念 特別展示図録』(国文学研究資料館編、2008年10月、思文閣出版)に掲載した「【16】御所本『源氏物語』、檜製糸罫」(103頁、久保木秀夫 執筆)の説明と写真を参照願います。
日本の「糸罫」が、ビルマ語では「ニンティ キャリア」と呼ばれるライニングの道具なのです。英語では、「Line Ruling Instrument」というそうです。
日本とミャンマーとでの違いは、次の点に整理できます。
ミャンマーの「ニンティ キャリア」では、イエローパウダーを使って糸に色の線を付け、リーフに黄色の線をスタンプします。これについてはさらに、専門外の私見ではあるものの、色水にこの道具の下部を浸して横長の糸に色を染み込ませたのではないか、と勝手に思っています。木枠が新しい再現品のようなので、この下部の状況はよくわかりませんでした。
日本の「糸罫」は、紙の上にその書写道具を直に置き、糸と糸との間に筆で墨文字を書き写していくのです。
この2国間の違いは、どうやら筆記用具が異なることにあるのではないでしょうか。
多分に仮説ながらも、ミャンマーと日本の文化の違いについて、おもしろいことがわかった気になっています。何分にも初見での私見なので、見当違いでしたら、ご批正いただけると幸いです。
私の素朴な疑問に、丁寧に対応してくださいましたKay Thi Aye 副館長及びスタッフの方々にお礼申し上げます。
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