2018年01月28日

[町家 de 源氏物語の写本を読む](第5回)の報告(ナゾリの問題点)

 雪が降りしきる中、「be京都」で『源氏物語』の写本を読み進めました。

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 今日は、NPO法人〈源氏物語電子資料館〉の定期勉強会以外に、デジタルカメラと鼓の集まりがあります。

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 中庭の手水鉢は凍っています。

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 お借りしている部屋の床の間には、いつも季節を感じさせる花が活けてあります。

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 今日は、書き写されている文字に関して問題がある箇所に絞って、丁寧に確認を進めました。参会者は4人でした。
 今回問題となった内のいくつかを、以下に取り上げます。

(1)本文「まことに」(7丁表4行目)と読んだ箇所で、なぞられた「ことに」の下に何と書いてあるかは、実はよくわかりません。一応「こらへ」と読んでみました。

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 しかし、これはさらに確認すべきものです。最初に書き写された文字が「まこらへ」では、前後の意味が通じないからです。そのために、書写者は「ことに」となぞり書きしたのでしょう。右横に細い字で「こと尓」とあるのは、この読みにくくなった文字列の読み方を、後に誰かが傍記したものと思われます。本行で「へ」を「に」になぞっているのに対して、傍記が「尓」とあるのは、親本とどういう関係なのでしょうか。字母レベルでの、なぞりや傍記のありようを調査する必要があります。
 諸本19本の本文異同は、次のようになっています。この資料は、「変体仮名翻字版」による校合が間に合わないので、明治33年に国策として統制された現行の五十音による「平仮名」で校合しています。諸本に注目すべき本文の異同はありません。

まことに/こらへ〈判読〉&ことに、こ=ことに[ハ]・・・・120548
 まことに[大尾御高天平麦阿三池国肖日伏保前]
 まことに/こ〈改頁〉[陽]
 ま事に[穂]


(2)本文「いえはえに」(7丁裏6行目)と読んだ箇所で、「いえ」は「八△」をなぞって書かれています。

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 このことは、『ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「須磨」』(伊藤鉄也編、新典社、2013(平成25)年)の翻字では、何も指摘しませんでした。「八△」というなぞりのことは、ハーバード大学美術館で原本を調査した時のメモにあるものです。この「いえ」のなぞりについては、いまだに自分の中でその意味と意図がわからないままです。上記編著を刊行する時には、同じ文字を確認の意味でなぞったものとしました。しかし、それも再確認をして、明確にしたいと思っています。
 諸本間の本文異同は、次のようになっています。ここでも、特に参考になる情報は得られません。

いえはえに[ハ=陽]・・・・120600
 いへはえに[大尾天平麦阿三国肖伏保]
 いと[御]
 いうはえに/う=え[穂]
 いへはえに/「いへはえにふかきかなしき笛竹のよこゑにたれとゝふ人もかな」〈行間〉、傍後に=やイ[高]
 いへはえに/〈朱合点〉、いへはえにふかくかなしきふえ竹の夜こゑやたれととふ人もかな〈行間〉[池]
 いへはえに/〈朱合点〉[日]
 いへはえに/〈合点〉、「いへはえにいはねはむねにさはかれて心一になけくころ哉」〈行間〉[前]


(3)本文「夜部」(11丁裏3行目)と読んだ箇所で、「夜」にはなぞりがないと判断して、上記テキストを刊行しました。ハーバード大学美術館で実見した時のメモにも、「なぞりナシ」とあります。

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 しかし今見ると、「夜」という漢字の左側に縦に細い線が引かれているのが気になります。なぞったように見えます。このハーバード大学美術館蔵本の「須磨」と「蜻蛉」は、3度実見しました。そして、ここのメモに「なぞりナシ」とわざわざ記しているのは、なぞりに見えるので何度も自分の目で確認したからこそ、そのように書き残したものなのです。翻字に変更はないとしても、書写されている現状の記述には、念のために再検討が必要な箇所です。
 また、この「部」は注意しておきたい例だと思っています。平仮名「へ」の字母は「部」だと言われています。しかし、私はそれに違和感を拭いきれないのです。この例でも、「部」を「変体仮名翻字版」で平仮名の「部」と翻字するのは問題ないとしても、それではこれが現行の「へ」の字母なのかというと、それには従えない気持ちが強いのです。
 参考までに、諸本19本の校合結果は、次のようになっています。

夜へは[ハ=陽池]・・・・120922
 よへは[大尾高平麦阿三国肖日伏保]
 夜部は[御]
 夜るは[穂]
 よへ/へ+は[天]
 よへは/=おほいとの△△ノコト[前]


 写本を読むことは、単純に文字を今の文字に置き換えるだけではすみません。さまざまな問題をクリアすることが求められます。
 今も、「be京都」で、日比谷図書文化館で、大阪観光大学で、遅々として進まないながらも古写本を読み続けているのは、現行の翻字が不正確だと思っているからです。写本に書写された文字が正確に読めていない中で、仮に読んだ翻字をもとにして作成した校訂本文の活字になったもので作品を読むことに、私はすなおに従えないのです。ごまかしの中で生まれた本文を読む前に、正確な翻字をしたいという思いが強くて、こうして写本と向き合っています。

 [町家 de 源氏物語の写本を読む]の次回は、2月24日(土)午後2時から、いつも通り「be京都」(http://www.be-kyoto.jp/)で行ないます。こうしたことに興味や関心をお持ちの方々の参加を、お待ちしています。
 
 
 
posted by genjiito at 23:57| Comment(0) | ◎NPO活動
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