2017年12月16日

[町家 de 源氏物語の写本を読む](第4回)の報告(虫損と誤読)

 本日「be京都」(http://www.be-kyoto.jp/)で開催した、第4回目となる[町家 de 源氏物語の写本を読む]の報告です。参加者は5名でした。
 図書館関係の方が参加なさっていることもあり、いつものように、写本を読むことよりも書物としての写本のありようや、変体仮名というものについての話が中心となりました。
 テキストとしている『ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「須磨」』(伊藤編、新典社、2013年)は、5丁裏1行目から6丁表最終行までの見開き2ページ分を確認しました。今日の進行役も、前回に引き続き須藤圭氏(立命館大学)です。

 読み進んでいる内に、黒丸に見え点が問題となりました。

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 翻字の部分には、何も注記がありません。すると、須藤氏から虫食いではないか、という見方が示されました。そう思って前後のページを見返すと、その可能性が高いことがわかりました。

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 次のページの同じ位置にも、この虫によると思われる穴があります。

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 この箇所を左右逆転した鏡文字にしてみると、まさに穴の位置と虫が食べた方向がまったく一致します。

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 さらによく見ると、この写本の表紙から虫が入ったことがわかりました。
 また、この写本の書き始めである、墨付き本文第1丁表の手前に貼られた極札にも、虫食いの跡があることに気づきました。

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 ということは、この極札は虫が食う前からこの位置に貼られていたことになります。思いつきながら、ここに虫が入ったのは、江戸時代以降のこと、ということになりそうです。写本は、いろいろと楽しいことを教えてくれます。

 さて、ここが虫食い箇所ならば、国冬本「須磨」で「つかうまつらせはや△/△〈虫損〉」(123510)としたように、ここに〈虫損〉という付加情報としての記号を使っているはずです。
 後でハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「須磨」「蜻蛉」とそのツレの巻である歴博本「鈴虫」を調べてみると、この3本に関する私の手元にある翻字データでは、〈虫損〉という記号は1例も使っていませんでした。さらに、同じ鎌倉時代の書写になる『国文学研究資料館蔵 橋本本『源氏物語』「若紫」』においても、この〈虫損〉という付加情報は見当たりません。どうやら、2年前から取り組みだした「変体仮名翻字版」の翻字データでは、〈虫損〉という記号によって虫食い箇所を明示してはいないようです。これについて、今後は詳細な付加情報を付けるような対処をすることにします。

 なお、このハーバード大学美術館蔵『源氏物語 須磨』の凡例では、次のように記したところがあります。

(12) 書写状態を明示するため、説明的な注記を傍記した場合がある。
  例 (五ト六ノ間ニ墨デ中黒点アリ)
     五六人はかり
 「五六人はかり」(42ウ2行目)では、「五ト六ノ間ニ墨デ中黒点アリ」と注記を右横に付した。


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 このことから、先に揚げた例が〈墨〉による点ではないことは、おおよそ推読できます。墨の跡や汚れについて、丹念に注記で明示したつもりです。しかし、それも指摘漏れがあるようです。

 上掲の写真で〈墨ヨゴレ〉と思われる箇所については、次のような状況にあります。ここは、〈墨ヨゴレ〉としておくべきでした。

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 さらには、テキストにしている刊行本(27ページ、6丁表最終行末)に、明らかな翻字間違い(誤字)があることもわかりました。

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 ここを私は、「ぬ可」として印刷しました。しかし、これは「ぬに」が正しい翻字です。「変体仮名翻字版」として表記すると「ぬ耳」です。これは、この丁の前から2行目に「可尓」という漢字表記があり、これは「べきに」と読ませるものです。それに引かれて「耳」を「可」としてしまった勘違いです。

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 鎌倉時代の写本としてシリーズ化して刊行したハーバード大学美術館蔵『源氏物語「須磨」「蜻蛉」』の2冊については、下段の翻字が写本に正確なものではありません。明治33年に統制された、従来の50文字に限定された現行平仮名による翻字でした。そのため、正確な翻字としての「変体仮名翻字版」は、その直後に刊行した『国立歴史民俗博物館蔵『源氏物語』「鈴虫」』(伊藤鉄也・阿部江美子・淺川槙子 編著、新典社、2015年10月)の巻末に、「須磨」と「蜻蛉」のものを掲載しました。そこでは、この箇所は「ぬ耳」(78頁)と正しく印刷されていますので、ご安心ください。

 今回は、こうした不備に関する確認をできたことが大きな収穫でした。翻字を進めつつも、確認を怠らないことを肝に銘ずる場となりました。
 
 
 

posted by genjiito at 19:31| Comment(0) | ◎NPO活動
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