2017年09月18日

清張全集復読(12)「面貌」「赤いくじ」

■「面貌」
 人間の心が内攻して生まれる憎しみを、清張は巧みに描く特性があります。人間観察眼が優れていたからでしょう。
 家康が我が子の醜さから遠ざけたという、茶阿の局の子忠輝の心の内面が、手に取るように描き出されています。家康に疎んじられ、家康の死後も反骨心を示した忠輝は、伊勢へ飛騨へと回されます。醜い容貌から誰もが不快がり、愛情を持って接してくれる者はいません。まさに、清張自身の体験や思いが、この忠輝に重ね写しになっているかのようです。【2】
 
初出誌:『小説公園』(昭和30年5月)
※「二すじの道」(『キング 秋の増刊号』昭和29年10月)と同じテーマを扱うものの、本作の方が少し詳しい。
※『松本清張全集 35』(文藝春秋社、1972.7.20)の巻末に収載されている著者自身による「あとがき」には次のようにあります。
松平忠輝をその醜い容貌からくるコンプレックスでとらえたのは私なりの解釈である。これは私自身の反映といえるかもしれない。(525頁上段)

 
 
■「赤いくじ」
 昭和19年の秋、戦時下のソウルでの話です。参謀長と高級軍医が、一人の美しい人妻に好意を寄せます。精神的なところに留まっていました。翌年の敗戦後、アメリカ兵の進駐に伴い、慰安婦の提供で身を守ろうとする中で、20人をどのようにして選ぶかが問題になりました。そして、あろうことか、くじ引きによることが決まったのです。まさに、女性を人身御供にするのです。
 この後、アメリカ兵とは何事もなく帰国となります。ことろが、この引き上げの時に、くじ引きで接待役に当たった女性たちが、まったく逆転した目で見られるようになったのです。何も罪を犯していないのに、あかかも犯罪者であるかのように。この一瞬にして評価が反転するさまは、清張のうまさです。
 敗戦に伴う混乱に乗じた、一人の婦人を巡る2人の男の恋愛感情を交えた事件が、緊迫感の中で物語られます。戦争を扱った短編として、高い完成度を見せるものだと思います。【5】
 
初出誌:『オール讀物』(昭和30年6月)
※「赤い籤」を改題。
※『松本清張全集 35』(文藝春秋社、1972.7.20)の巻末に収載されている著者自身による「あとがき」には次のようにあります。
私が朝鮮群山の近くに一兵卒として駐留し敗戦を迎えたときの挿話から思いついた。当時、私は師団司令部付だったので、高級将校の動きはよくわかっていた。(525頁上〜下段)

※『松本清張事典 決定版』(郷原宏、角川学芸出版、平成17年4月)での評価。
「慰安婦問題にいち早く焦点を当てた戦記小説の力作。」(9頁)
 
 
posted by genjiito at 22:30| Comment(0) | □清張復読
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