2017年09月01日

清張全集復読(11)「恋情」「特技」

■「恋情」
 明治新政府になった時の話です。田舎の小さな旧藩主の長男に生まれた己(山名時正)は、本家の娘で4つ下の律子に愛情を抱きます。
 明治19年に、己はロンドンにわたり、オックスフォード大学に留学します。正月のある日、己は新聞で、律子が宮様と結婚することを知りました。自分が海外に追い出されたことを知るのでした。
 帰国後、折々に律子の姿を追います。しかし、会うことすらできないままです。その後、宮が亡くなり、続いて律子も亡くなりました。辞世の句を読んでも、自分のことを思い続けていてくれたと思う己です。
 最後まで、男の側からの愛情が失せないことを語り、女の方の気持ちは語られずに読者に委ねたままで終わります。
 清張にしては歯切れの悪い、思わせぶりな作品となっています。【2】
 
初出誌:『小説公園』(昭和30年1月)
※原題は「孤情」
 
 
■「特技」
 秀吉が朝鮮に出兵した時の話で始まります。稲富直家という射撃の名手がいました。細川幽斎の子忠興は、家臣だったその直家を率いて渡海しました。
 忠興は、直家が主に「諂諛(てんゆ、へつらう意)」していると思い、不愉快でした。また、「技術を尊ぶのに敵味方はない」ということばも、この話の中で生きています。忠興の神経質な嫉妬と執拗さが、この話の背景を支えています。
 家康との逸話も、尊敬と軽蔑が綯い交ぜになって語られます。人間が持つ二面性です。技術を持つ者がその内面に抱く、知られざる劣等感が、簡潔な表現で描き出されています。人の心の奥底をあぶり出すことに長けた、清張の眼力が生み出した短編です。可能であれば、直家の心の変化をもっと語ってほしいと思いました。【3】
 
初出誌:『新潮』(昭和30年5月)
 
 
 
posted by genjiito at 19:33| Comment(0) | □清張復読
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