2017年08月05日

日比谷で『源氏物語』「若紫」を読む/第4回

 毎月1回、第1土曜日に、東京・日比谷で『源氏物語』を読んでいます。

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 読んでいると言っても、鎌倉時代に書かれた文字を、字母にこだわって読んでいるのです。決して、物語の中身には立ち入らないようにしています。

 物語の筋には触れないようにしつつも、今日は、珍しく中身にこだわった内容となりました。それは、興味深い異文があったからです。

 当該箇所の本文とその現代語訳は、次のように光源氏が語っているところです。

「橋本本」本文
まだ知らずなん。かたじけなくとも、

現代語訳
「まったく申し上げようもないことです。恐れ入りますが、」

--------------------------------------
「大島本」本文
まだ、さらに聞こえ知らず、ならはぬ事になむ、かたじけなくとも、かかるついでに、

現代語訳
「まったく何とも申し上げようもないくらい経験のないことでして、恐れ入りますが、こうした機会に、」
『新編日本古典文学全集』(小学館)より


 大島本が、言葉を尽くして光源氏を描いている場面です。それに引き換え、橋本本は何ともあっさりしています。

 ここは、次のように17種類の諸本が本文に異同を示しています。

橋本本・・・・050000
 大島本(1)[ 大 ]
 中山本(1)[ 中 ]
 麦生本(1)[ 麦 ]
 阿里莫(1)[ 阿 ]
 陽明本[ 陽 ]
 池田本[ 池 ]
 御物本[ 御 ]
 国冬本[ 国 ]
 肖柏本[ 肖 ]
 日大三条西本[ 日 ]
 穂久邇本[ 穂 ]
 保坂本[ 保 ]
 伏見本[ 伏 ]
 高松宮本[ 高 ]
 天理河内本鉛筆なし[ 天 ]
 尾州河内本(1)[ 尾 ]
--------------------------------------
また[橋=大中麦阿陽池御国日穂保伏高天尾]・・・・051706
 いまた[肖]
ナシ[橋=中高天尾]・・・・051707
 さらに[大麦阿陽池御国肖日穂保伏]
しらすなん[橋=中高天尾]・・・・051708
 きこえしらす[大阿池御国肖日保]
 聞えしらす[麦]
 きこゑしらす[陽穂]
 きこえしらす/し〈改頁〉[伏]
ナシ[橋=中高天尾]・・・・051709
 ならはぬ[大麦阿陽池御国肖穂保伏]
 ならはぬ/〈改頁〉[日]
ナシ[橋=中高天尾]・・・・051710
 事になむ[大穂]
 事になん[麦阿陽国保伏]
 ことになむ[池肖]
 ことになん[御日]
かたしけなくとも[橋=大中阿陽池御国肖日保伏高天尾]・・・・051711
 かたしけなく共[麦]
 かたしけなくとも/な〈改頁〉[穂]
ナシ[橋=中高天尾]・・・・051712
 かゝる[大麦阿陽池御国肖日穂保伏]
ナシ[橋=中高天尾]・・・・051713
 ついてに[大麦陽池御日穂伏]
 つゐてに[阿肖保]
 つゐてに/に〈改頁〉[国]


 とにかく、『源氏物語』の本文は2つにしか分かれないことは、今回提示した箇所でも明瞭です。私が、〈青表紙本〉とか〈河内本〉とか〈別本〉という、池田亀鑑伝来の「形態によるモノサシ」で『源氏物語』の本文を3分するのはもうやめませんか、と言っていることが、ここでも明らかになっています。

 それはさておき、なぜこのように、似て非なる本文が伝わっているのか、という問題提起として、今日はこの例を提示しました。お話が大きく変わるものではありません。しかし、本文が書写され、写本が伝承される中で、どうしてこのような違いが生まれたのでしょうか。

 今すぐに結論が出ることではありません。こんなことがあり、しかもいまだに解明されていないことだ、という話題の提示に留めています。言い続けることに意義があるのです。後は、若い方の出番だと思っているからです。

 こうした大島本と橋本本の本文の違いは、ごろごろと出てきます。折々に、異なる文章の違いを、一人でも多くの方々と一緒に読み解いていきたいと思っています。

 今日も、講座が終わってから、有楽町で皆さんと談話会となりました。楽しい集まりなので、毎回が待ち遠しい講座となっています。

 もうすぐ、次の期の本講座の募集が始まります。
 いまはまだ、「今期の情報」(末尾に『源氏物語』の講座紹介)なので、10月からの詳細はもうしばらくお待ち下さい。

 鎌倉時代に書き写された『源氏物語』の写本の文字を読んでみたい方は、どうぞお集まりください。これまで広く読まれて来た、大島本に書き写された本文とは異なる、橋本本『源氏物語』を読んでいます。これまで、この本はまったく読まれて来ませんでした。大島本が語る世界とは異なる『源氏物語』を、少しずつ読んでみませんか? そして、古写本に書き写された文字を翻字する、というスキルを習得してください。
 
 
 
posted by genjiito at 23:54| Comment(0) | ◎NPO活動
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