2017年05月08日

平仮名「て」の字母に関する資料を検討中

 昨日の記事で、平仮名の「て」について、字母を「天」にするか「弖」にするかで思案し続けていることを書きました。そこで、この問題を考える上で参考になる例を提示します。
 『国文学研究資料館蔵 橋本本『源氏物語』「若紫」』(伊藤鉄也・淺川槙子編、新典社、2016.10)の38丁表8行目下部に、次の字句が書き写されています。

170508_te1.jpg

 これは、「給て とく」と読むところです。
 ただし、2文字目の平仮名の「て」をジッと見ると、その下に最初は「く」のような「て」が書かれていたことがわかります。それを小刀で削って、その上から「て」となぞっているのです。
 この箇所を拡大して撮影すると、次のように鮮明になぞられた文字が確認できます。

170508_te0.jpg

 橋本本「若紫」に書写されている「て」については、この38丁表の見開き右側にあたる、37丁裏の2行目と3行目の上部に見られる、次の字形が普通です。

170508_te2.jpg

 これは、「見ても…」と「や可て…」と書かれているものです。
 今、私はこの2種類の「て」を、共に「天」が崩れた平仮名だとしています。しかし、「や可て…」の「て」が「く」のように見える「弖」とする方がいいのではないか、という気持ちも払拭できないのです。

 この問題については、すでに「ひらがな「て」の字母とされている「天」と「弖」の区別について」(2017年01月23日)で取り上げました。
 その後、「弖」と確証が得られる例に出会っていません。「く」によく似た文字の最後の線が、どうしても左から右下に向かい、さらに下向きに弧を描いて流れているので、「弖」よりも「天」の方に魅かれます。もちろん、「第一画の線の長短によって見分けられる」というご意見も認めます。しかし、『源氏物語』の鎌倉期の写本をいろいろと見ている限りでは、「弖」の字形がイメージできないのです。

 なお、上掲の「給てとく」の場合は、目が次の文字に流れていたために、「給」を書いてから字形がよく似ている「とく」のような「く」に近い字を書いてしまい、すぐにそれを削って「て」と書き直したとも考えられます。すぐに書き直す例は、橋本本ではよく見られることです。

 いずれにしても、この橋本本「若紫」の親本にどのような字母で「て」が書かれていたのかがわかると、おもしろくなります。いつかわかれば、いいのですが。

 この「天」か「弖」かという問題は、文字を専門に研究なさっている方々には、自明のことなのかもしれません。しかし、私はこれまでの経験から抜け出られないので、まだ決めかねているのです。
 ご教示いただけると幸いです。
 
 
 

posted by genjiito at 21:22| Comment(0) | ■変体仮名
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