2017年03月16日

橋本本が伝える本文から大島本とは違う表現世界を考える

 日比谷図書文化館で鎌倉期の古写本『源氏物語』を読んで来ました。
 今日で今期の最後です。
 ただし、新年度の5月から毎月1回、基本的には毎週第1土曜日の午後2時半から4時半までの2時間の講座として、新たにスタートします。
 その意味では、こうして夜の日比谷公園に来るのは、これからはないと思われます。記念に、日比谷図書文化館の夜の姿を記録に留めておきます。

170316_hibiya.jpg

 初夏からの再開でも、一緒に古写本の『源氏物語』が読める機会を大切にして、可能な限り少しでも多く読み進めていきたいと思います。

 今日も、橋本本「若紫」の本文を、字母に注意しながら見ていきました。受講者のみなさまは、もう大分慣れておられるので、後半は異文について考えました。
 例えば、次の本文の異同などはどう考えたらいいのでしょうか。


(1)〈甲類〉と〈乙類〉が見せるおもしろい例
なつかしう[橋=尾中高天尾]・・・・051201
 なつかしふ[陽]
 ナシ[大麦阿池御国肖日穂保伏]
かほりあひたるに[橋=中陽高天]・・・・051202
 かをりあひたるに[尾尾]
 にほひあひたるに[麦阿]
 にほひみちたるに[大池御国肖日穂保伏]

 ここでは、私が〈甲類〉とする橋本本などの諸本が「なつかし」ということばを持つのに対して、大島本などの〈乙類〉にはそのことばがありません。それに続いて、〈甲類〉は「かをりあひたる」とし、〈乙類〉は「にほひみちたる」という違いを見せています。この語句の意味の違いは何なのでしょうか。幅広い視点で解釈をしていくのにいい例です。
 その間でうろうろしているのが、〈甲類〉に属する麦生本と阿里莫本の「にほひあひたる」です。興味深い本文の分別ができるところです。

(2)ことばの異同から語られる内容の違いを見る
ナシ[橋=尾高天尾]・・・・051354
 いかなる[大中麦阿陽池御国肖日穂保伏]
ナシ[橋=尾高天尾]・・・・051355
 人の[大中麦阿陽池御国肖日穂保伏]
ナシ[橋=尾高天尾]・・・・051356
 しわさにか[大中麦阿池御国肖穂保伏]
 しはさにか[陽]
 しわさにか/に〈改頁〉[日]
兵部卿の宮[橋=中]・・・・051357
 兵部卿の宮なむ[大陽池]
 兵ふ卿のみや[尾尾]
 兵部卿宮なん[麦阿御国]
 兵部卿の宮なむ/=紫上ノ父[肖]
 兵部卿の宮なん[日保伏]
 兵部卿宮なむ[穂]
 兵部卿のみや[高]
 兵部卿宮[天]
しのひて[橋=大尾中陽池御国肖日穂伏高天尾]・・・・051358
 忍て[麦]
 忍ひて[阿]
 しのひて/〈改頁〉[保]
かよひつき[橋=尾中高天尾]・・・・051359
 かよひつき/つ[陽]
 かたらひつき[大麦池御国肖日穂保伏]
 かたらひ[阿]

 私の分別では〈乙類〉に属する大島本などは、「いかなる人のしわざにか」と、女房などの手引きを匂わせています。しかし、そのことばを橋本本などの〈甲類〉は伝えていません。
 また、橋本本などの〈甲類〉は「しのびてかよひつき」とし、大島本などの〈乙類〉は「しのびてかたらひつき」とします。この「かよふ」と「かたらふ」という表現の違いに着目して解釈すると、こうした語句レベルの異同の集積が全体の表現にも影響するはずです。
 橋本本などの〈甲類〉の読み込みを、今後はもっと深めて行きたいものです。今までは、大島本だけで『源氏物語』の表現を考えていました。しかも、活字による校訂本文に依ってのものです。しかし、ここに提示している橋本本で物語を考えると、新しい『源氏物語』の読み解きに展開していきます。
 それこそ、次の世代を担う、若手の出番なのです。

 今日は、17丁裏 3行目「多まふ」まで確認しました。
 次回、2017年度の第1回目は5月6日(土)で、17丁裏3行目の「可の・【大納言】八」から始まります。
 
 
 
posted by genjiito at 23:02| Comment(0) | ◆源氏物語
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