2017年03月02日

橋本本「若紫」で同じ文字列を同じ字母で傍記している例

 いつものように日比谷図書文化館で、橋本本「若紫」巻の字母に注目しながら読んでいます。
 今日は、講座の受講生の方から、貴重な意見をいただきました。次のように書かれている箇所をどう読むか、ということです。
 14丁表で終わりの2行は、次のようになっています。

170302_yositada.jpg

 この最終行の手前の行間に、なぜ「よし堂ゝ」とあるのか、というのが問題なのです。
 その直前の行末にある「よし堂ゝ」と同じ字母で書かれています。それも、ほとんどが右横に傍記されるのに、ここでは左側に傍記されているので、なおさら不可解です。

 ここの諸本を見ると、次のような本文の異同があります。まず17種類の諸本の略号をあげてから、本文の異同を示します。


橋本本・・・・050000
 大島本(1)[ 大 ]
 中山本(1)[ 中 ]
 麦生本(1)[ 麦 ]
 阿里莫(1)[ 阿 ]
 陽明本[ 陽 ]
 池田本[ 池 ]
 御物本[ 御 ]
 国冬本[ 国 ]
 肖柏本[ 肖 ]
 日大三条西本[ 日 ]
 穂久邇本[ 穂 ]
 保坂本[ 保 ]
 伏見本[ 伏 ]
 高松宮本[ 高 ]
 天理河内本鉛筆なし[ 天 ]
 尾州河内本(1)[ 尾 ]
 
 
よきり[橋=大尾中麦阿陽池肖日保高天]・・・・051074
 より[御穂]
 ナシ[国]
 よきおり[伏]
おはしましたる[橋=高]・・・・051075
 をはしましける[大御保]
 おはしたる/し+〈朱〉まし[尾]
 をはしましたる[中陽天]
 おはしましける[麦阿池国肖日穂伏]
よし/し=よしたゝ〈左〉[橋]・・・・051076
 よし[大尾中麦阿陽池御国肖日穂保伏高天]
たゝいまなん[橋=尾陽御国保伏高天]・・・・051077
 たゝいまなむ[大中池肖日穂]
 たゝ今なん[麦阿]
うけたまはりつる[橋]・・・・051078
 人[大麦阿池御国肖日穂保伏]
 うけ給はり[尾中高天]
 うけ給[陽]
ナシ[橋]・・・・051079
 申すに[大池御肖保]
 はへりつる[尾高]
 さふらひつる[中]
 申に[麦阿国穂伏]
 侍つる[陽天]
 申すに/〈改頁〉[日]
おとろきなから/き〈改頁〉[橋]・・・・051080
 おとろきなから[大尾中麦阿陽御国肖日保伏高天]
 おとろきなから/前1ら〈改頁〉[池]
 をとろきなから/〈改頁〉[穂]


 受講生の方の意見は、この「よし堂ゝ」は最終行の丁末にある「おとろ」に対する傍記ではないか、というものでした。つまり、「う遣多ま八里つる」と「おとろ〜」の間に「よし堂ゝ」を補入したいのではないか、と見る意見です。ただし、ここに補入記号の○などはありません。

 その時に、私の手元に諸本の正確な翻字資料がなかったので、指摘があったことの可能性を保留にして、私の宿題にさせていただきました。そして今、諸本を調べると、上記のようになっていることが確認できました。

 結果的に、この丁末の「おとろ〜」の前後に「よし堂ゝ」が入るような異文は見つかりませんでした。特に、私が乙類としている大島本などの本文の類が橋本本の校訂に参照されていることを考えても、そうした痕跡は大島本などの乙類にはまったくありません。

 これで、問題は白紙にもどりました。一体、なぜ、この行間に「よし堂ゝ」という文字列が書かれているのでしょうか。間違って書いたとは思われません。間違いだったとしても、ミセケチや削除もしていません。字母が同じ文字列というのも不可解です。
 親本に書かれていたままに書写している可能性もあります。しかし、それでは親本はなぜそのような本文を伝えていたのでしょうか。そうしたことの説明が、今の私にはできません。

 この件に関してご教示のほどを、よろしくお願いします。
 
 
 

posted by genjiito at 23:58| Comment(0) | 変体仮名
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