女優歌川百合枝は、アメリカで撮影した神秘劇「人間の顔を持つた腫物」(邦題「執念」)について、自分が演じたものであるにもかかわらず記憶がまったくないのです。
全5巻のその活動写真の内容を、作者は詳しく紹介し検討していきます。
女の膝頭にできた腫物が、次第に人の顔に見えるようになってくる場面が不気味です。
そして、数奇な運命が……
このフィルムは、とにかく不思議なものでした。次々と怪異が起きるのです。しかも、制作されたことすら怪しくなったのです。何者かがフィルムを繋ぎ合わせて焼き込んだ偽物だとも……
さらには、笛吹きの乞食役の男が何者なのか。特にフイルムの第5巻は多くの問題を孕んでいるようです。
終始謎解きの趣向で展開し、谷崎らしい作品となっていきます。映画への関心が顕著なのは、この時期の特徴でもあります。最後が唐突に終わったように思います。【4】
初出誌︰『新小説』大正7年3月号
■「魚の李太白」
お伽噺を意識した、おもしろい話に仕上がりました。
17歳の春江という、女学校出のお嬢様の話です。
親友の桃子が結婚をするので、お祝いを探して銀座に出ます。そして、緋縮緬の鯛の人形に決めて贈りました。その鯛が、李太白の生まれ変わりだったというのです。
明るく楽しい、童話とでもいうべき作品です。【3】
初出誌︰『新小説』大正7年9月号
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