2016年01月31日

点字による変体仮名版の翻字は可能か(5/私案の提示)

 渡邊寛子さんからの報告を受けて、「点字による変体仮名版の翻字は可能か(4/from 渡邊)」(2016年01月28日)という記事を書きました。そして、具体的な方策をいろいろと考えました。

 暫定的ではあっても、目が不自由な方が変体仮名を扱う上で便利なものとして、一つの私案をここに提示します。

 これは、渡邊さんが「翻字データをパソコンで聴きながら点訳」しておられるということから、それではそのための基礎データを作成しておけばいいのではないか、と思ったことに端を発するものです。
 いわば、「視覚障害者用変体仮名表記表現一覧」とでも言うべきものです。

 国立国語研究所がウェブサイトに「学術情報交換用変体仮名」として公開されているものは、「約293文字の文字画像(字形)」でした。
 ただし、これには現行のひらがなである「て(天)/な(奈)/み(美)/も(毛)/る(留)」に関しては変体仮名が3パターン採録されています。
 その他、変体仮名である「可/佐/数/春/須/所/多/登/那/尓/年/能/盤/者/飛/本/満/井/衛/乎」等のよく使われるものには、2パターンの字形が採録されています。
 そのため、字母別変体仮名の文字数は次の176文字に整理することができます。

 これを、さらに鎌倉時代の『源氏物語』(ハーバード本「須磨・蜻蛉」と歴博本「鈴虫」)の写本に使われる変体仮名だけにしぼってみると、次の赤文字(57種)が点字で書き分けられればいいのです。


悪/愛//意/移/憂/有/雲//盈/縁/要/隠/佳//嘉/家/我/歟/賀/閑/香/駕/喜//木/祈/起/九/供/倶//求//気//期/許/乍//差/散/斜/沙/事//受/寿/数//聲//楚/蘇/處//當/千/地/智/致//津/都/亭/低/傳/帝/弖/轉/土/度/東//砥/等/南/名/菜//難/丹//児//而/耳/努//子//熱/濃//農//半/婆//破//頗//避/非//布/倍/弊//邊/報/奉/寳//萬/麻//微//身/无//牟/舞//面/馬//茂//夜/屋/耶//余/餘//李/梨/理//離/流//類/連/麗/婁/樓//露/倭//遺/衛/乎/尾/緒/


 この赤字以外の変体仮名については、鎌倉時代の写本の変体仮名を点字で翻字した後に、そこから見えてきた問題点を整理する中で、室町時代や江戸時代の版本にまで及ぼして考えればいいのではないか、と思います。

 なお、通信で用いられる「無線局運用規則第十四条 別表第五号 通話表」(「ちょっと便利帳」http://www.benricho.org/symbol/tuwa.html)に掲載されている文字に関しては、その表現を利用しています(※印を付したもの)。

阿=「阿弥陀のア」
伊=「伊勢のイ」
江=「江戸のエ」
可=「可能のカ」
支=「(思案中)」
具=「道具のグ」
个=「一个のケ」
希=「希有のケ」
遣=「遣唐使のケ」
古=「古文のコ」
故=「故郷のコ」
佐=「佐渡のサ」
四=「四国のシ」※
志=「志願のシ」
新=「新聞のシ」※
寿=「寿司のス」
春=「(思案中)」
須=「須磨のス」
勢=「伊勢のセ」
所=「余所のソ」
堂=「(思案中)」
多=「多少のタ」
遅=「遅刻のチ」
徒=「生徒のト」
登=「登山のト」
那=「那智のナ」
二=「数字のニ」
尓=「爾の異体字」
怒=「鬼怒川のヌ」
年=「年号のネ」
能=「能登のノ」
八=「数字のはち」※
盤=「円盤のハ」
者=「(思案中)」
葉=「葉月のハ」
悲=「悲劇のヒ」
日=「日本のニ」※
飛=「飛行機のヒ」※
婦=「婦人のフ」
遍=「遍照のヘ」
本=「本文のホ」
万=「万年のマ」
満=「満月のマ」
三=「三笠のミ」※
見=「見舞のミ」
無=「無線のム」※
免=「免許のメ」
母=「母屋のモ」
裳=「裳着のモ」
遊=「遊山のユ」
羅=「羅生門のラ」
里=「里程のリ」
累=「累積のル」
路=「路上のロ」
王=「(思案中)」
井=「井戸のヰ」※
越=「越度のヲ」
【以上57文字】

 まだ、点字で表記するための表現を決めかねているものがいくつかあります。
 「(思案中)」としたのがそれです。
 「王」については、「王仁のワ」を考えました。しかし、応神天皇の時代に『論語』や『千字文』を伝えた王仁(和邇吉師)は、目が見えない方々に「王」という文字をイメージする喚起力に欠けるように思われます。これらは、追い追い考えることにします。
 まずは、現時点での私案を提示しておきます。

 現行(明治33年に制定)のひらがなに加えて、この57種類の変体仮名だけで、ハーバード大学本「須磨」「蜻蛉」と歴博本「鈴虫」が読めるのです。もちろん、「給」や「御」などの漢字は読み飛ばしてのことです。

 漢字を読み飛ばしても、意味は伝わるので心配はいりません。
 これについては、音声による支援を考えています。
 「名工大で古写本の音声システムが初稼働して感激」(2015年11月09日)
 いろいろな視点から対処していくことで、一人でも多くの方に『源氏物語』の写本というものとの接点を見つけ出していただけるのでは、と思って取り組んでいるところです。

 お気付きの点などをご教示いただけると幸いです。
posted by genjiito at 23:26| Comment(0) | ◎源氏物語
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