2015年12月19日

豊島科研の源氏本文研究会は通算22回目となりました

 10日前に予告した通り、今日は渋谷の國學院大學で「『源氏物語』の本文に関する豊島科研の研究会」がありました。

 正面玄関には、門松が置いてありました。
 師走に入っていることを実感します。


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 久しぶりに大学を訪れたこともあり、敷地に隣接する塙保己一史料館・温故学会に立ち寄りました。ただし、齊藤理事長にはあらかじめ連絡をしていなかったので、玄関の保己一検校の像と黄葉だけを写真に収めてきました。


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 さて、『源氏物語』の本文に関する研究会が、それも10年にもわたって続いていることは、あらためてすごいことだと思っています。

 今日は、会場に足を運んでくださった若い方々の姿を見かけて、うれしくなりました。こんな地味な研究に興味を持ってもらえたことは、本当にありがたい限りです。

 また、昨年度まで国文学研究資料館のプロジェクト研究員として私の仕事を助けてもらっていた阿部さんが、研究会に参加してくれていました。新しい仕事が忙しい中をとにかく駆けつけてくれたことは、本当にうれしく思いました。『国立歴史民俗博物館蔵『源氏物語』「鈴虫」』(伊藤鉄也・阿部江美子・淺川槙子 編著、新典社、2015年10月)で一緒に翻字の確認をしたことが、昨日のことのように思い出されます。また、いい仕事を一緒にしましょう。

 さらにうれしいことに、実践女子大学の上野先生の紹介で、大学3年生だというMさんが私に挨拶に来てくれました。写本の翻刻に興味があるそうです。
 得難い若者の出現に、今後の成長が大いに楽しみです。

 今日の研究会に参加された若いみなさん。ここで見聞きしたことを、ぜひともご自宅に帰られてからも反芻し、今後の勉強に役立ててほしいと願っています。
 そして、写本を読んでみたくなったら、まずはこのコメント欄を利用してでもいいので、連絡をください。

 とにかく、『源氏物語』の研究といっても、古写本を対象にしたこんな研究分野があるのです。ほとんど見向きもされない、地味な研究です。古典籍の資料を扱うので、手間がかかり、時間がかかり、しかもなかなか成果が見えません。しかし、着実に前に進んでいることが実感できます。日に日に、手応えが感じられる研究分野なのです。

 若者を見つけると、つい、こんなことを念力でも伝えたくなります。
 写本や影印本を見ていて息苦しさを感じたら、それは私の念力が届いた証拠です。無心に変体仮名と、にらめっこを続けてください。しだいに快感になっていくこと請け合いです。

 今日も濃密な時間を、参加された皆さま方と一緒に共有できました。
 得難い一日となりました。ありがとうございました。

 思いつくままに、今日の発表に関する私のメモを残しておきます。
 これは、あくまでも私の理解を通しての、自分のための備忘録です。
 各論は、本年度の豊島科研の報告書に掲載されるはずです。
 詳しくは、そちらでご確認ください。
 
(1)河内本の本文の特徴―「若紫」巻を中心に―(豊島秀範)
 次の3点に関して、私から質問をさせていただきました。これは、この研究会が内輪での労い合う場にならないようにと、少し批判的な立場からの質問にしました。
 「系統」という言葉の使い方/「本文は2分別される」という実態/「三系統論」で諸本を見ることについての限界
 
(2)「おぼす」と「おもほす」の偏向(神田久義)
 次の3点に関して、私から質問をしました。
 修正後の本文ので考えることの意味/麦生本と阿里莫本の表記の違い/「ジャパンナレッジ」を使う上での注意点
 
(3)類義語と本文異同(中村一夫)
 手堅い手法で、わかりやすく異文の本文解釈を元にした評価がなされました。納得です。いつものことながら、テーマの設定と資料の扱い方は鮮やかです。
 ただし、内輪褒めに終わらないためにも一言。発表から教えていただくことは多いものの、私自身が持つ問題意識を刺激するもの、言い換えれば啓発とでも言うべきパワーが感じられませんでした。場違いを承知での無い物ねだりですが。

(4)字母から見たハーバード本「須磨・蜻蛉」と歴博本「鈴虫」─写し忘れた文字をなぞる場合─(伊藤鉄也)
 私は、以下の内容で研究発表をしました。

 ■発表要旨■
 鎌倉時代中期に書写された写本として、これまでに次の三帖の翻字を終えた。
 ・『ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「須磨」』(新典社、2013年)
 ・『ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「蜻蛉」』(新典社、2014年)
 ・『国立歴史民俗博物館蔵『源氏物語』「鈴虫」』(新典社、2015年)
 歴博本「鈴虫」及びその巻末資料において、「変体仮名翻字版」として字母レベルでの翻字を公開したことにより、さまざまな書写実態に即応した検討が可能になった。
 本考察では、この翻字資料をもとにして、なぞられた文字を確認していく。なぞった文字は、直下の一、二文字に意識が滞留したために写し忘れたものである場合が多い。
 これは、『源氏物語』において異本や異文が発生し伝流する事情を説明するのに、一つのユニークな視点を提供するものとなるはずである。
 ■書写道具としての糸罫■
 「檜製糸罫」(宮内庁書陵部蔵)『源氏物語 千年のかがやき』(国文学研究資料館編、一○三頁、平成二十年一〇月、思文閣出版)は、親本を目の前に置いて複写本をそっくりそのままに作成する時に使用する道具である。書写本の行末および丁末におけるなぞり・ミセケチ・補入・傍記等の書写に関する問題は、この道具の存在がその物理的な要因となっていることは明らかである。
 また、このことが、書写しながら本文を改変するという説明がいかに非現実的なものであるかを、如実に物語るものとなっている。
 親本をもとにして写本を作成するということは、原則として可能な限り臨書によるものである、ということが基本となっている。その際、傍記や傍注が本行の本文に混入することによって、書写本における異文が発生すると考えられる。安易に書写しながら本文は改変されてきた、とは言うべきではない。
 ■「須磨」のなぞり(資料1〜14)■(全六四例)
  (中略)
 ■「鈴虫」のなぞり(15〜18)■(全一九例)
  (中略)
 ■「蜻蛉」のなぞり(19〜30)■(全一七四例)
  (中略)
《なぞられた文字が判読できるか》
  (中略)

 この私の発表に対して、次の3つの視点からの質問を4人の方から受けました。これについては、後日ウエブ公開する論稿にもお答えを掲載する予定です。
 「檜製糸罫の実態」/「変体仮名の字母のパターン」/「変体仮名翻字版は良い」
 特に「檜製糸罫の実態」については、日向一雅先生からもお尋ねを受けました。江戸時代以前のものが確認できていないことをお答えしました。この糸罫について、詳しいことをご存知の方は教えていただけると幸いです。

 また、翻字された文字の計測をする文学研究用のツールについての確認を受けたので、来週をメドに公開する予定です。楽しみにお待ちください。

 現在私は、自分の研究内容と成果を印刷物にして配布することに疑念を持っています。手間と時間を考えると、いつでも誰にでも自由に読んでもらえるウエブ投稿を率先して実践しています。今回の発表も、豊島先生の科研報告書に掲載してもらうかもしれません。しかし、その前に、まずはウエブに公開するつもりでいますので、今回の発表内容の詳細はもう少しお待ちください。
 
(5)三条西家源氏学における本文と註釈の形成史(上野英子)
 今回の発表の内容は、おおよそ次のものでした。問題点の広がりと流れをよく伝える発表でした。
 「本文と注釈と校訂」の変遷/「流布本の証本になったこと」/「新しい発展につながるのか、本文提供のあり方を期待」/「極楽寺入道本とは何か?」
 
(6)東海大学桃園文庫蔵零本「浮舟」巻本文の位置(上原作和)
 今回の発表は、豊富な資料での論証/「諸本の整理が難しい」としながらも諸本のマッピングを提案/「脱文と補入」/「蓬左文庫本を軸にしての再検討を」というものでした。私と問題意識が重なり合うこともあり、刺激的な内容でした。
 
 最近、外食中に腹痛になることがあります。今日もその不安があったので、懇親会でみなさまにご心配をおかけしないようにと思い、勝手ながら欠席させていただきました。
 みなさま、失礼しました。
 またの機会を楽しみにしています。
 よいお歳をお迎えください。
posted by genjiito at 23:35| Comment(0) | ◎源氏物語
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