2015年12月18日

ハーバード本「須磨」の翻字の一部を訂正します

 明日おこなわれる國學院大學での研究発表の準備をしていて、翻字で補訂すべき箇所が見つかりましたので、ここにその補正例を報告します。

 いずれも、なぞった文字は直下の一、二文字に意識が滞留したために、思わず知らず写し忘れていたことに起因するものです。

 ここで補正を加えるのは、従来の翻字方法で刊行した、『ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「須磨」』(伊藤鉄也編、新典社、2013年)と『国立歴史民俗博物館蔵『源氏物語』「鈴虫」』(伊藤鉄也・阿部江美子・淺川槙子 編著、新典社、2015年)の巻末に収載した「変体仮名翻字版」における翻字です。

 以下にあげる5例すべてが間違った翻字だというのではなくて、なぞりの部分に関してその箇所に書かれている文字の認定の問題から発生した補正です。

 「鈴虫」と「蜻蛉」については、後日追記する形で報告します。
 
 

(A)「遍多てしよ那と/し&し」(「須磨」8ウL3)


151219_hedatesi




 これは、「遍多てし」と書いたつもりが、「てし」の「し」に目が走ったためか「て」が字形をなしていないことに、書写者がすぐに気付いた箇所です。
 そこで、不十分な字形の「て」をあらためて墨を継ぎ足して「て」にし、その次に丁寧に「し」を書き続けています。
 したがって、前掲書の翻字は「遍多てしよ那と/てし〈判読〉&てし」と訂正したいと思います。
 
(B)「【侍】る尓/し&る」(「須磨」5オL2)


151219_haberuni




 「侍るに」の「る」は、「し」をなぞったものとして前掲書では翻字しました。しかし、なぞりに関する調査をもとにした検討結果を踏まえて再確認すると、「侍尓」と書いた後、すぐに「尓」を「る」になぞったものだと考えられます。
 したがって、翻字を「【侍】る尓/尓&る」と訂正したいと思います。
 
(C)「那く/△&く・うち」(「須磨」9オL6)


151219_nakuuti




 「那う」と書いた後に「うちすし」と書こうとしたようです。「那」の次の「う」が、それに続く「く」を書き飛ばしたための「う」であり、しかも曖昧な字形となっています。書写者はすぐにここが「那く」であることに気づいたものと思われます。「う」に目がいったために「那う」と書いてしまったのです。
 したがって、ここの翻字は、「那く/う&く」と訂正したいと思います。
 
(D)「あけ尓あさ可ら須/前あ$、△&け」(「須磨」9ウL2)


151219_akeni




 これは、「あけに」と書くときに、続く「あさからす」の「あ」に目がいってしまい、「あ佐」と書こうとして「佐」の途中で筆を止めたものと思われます。すぐに間違いに気づき、「あさ」の「あ」をミセケチにした後に、書き止しの「佐」を「け」となぞって「尓」と続けているのです。
 翻字としては、「あけ尓あさ可ら須/前あ$、佐〈書止〉&け」と訂正したいと思います。
 ここで付加情報として記述した〈書止〉という符号は、今回新たに設定するものです。今後の「変体仮名翻字版」では、この記述を取り込んだ翻字方針で臨みたいと思います。
 なお、「佐」については、本書には次の字形が散見するので、一例だけをあげておきます。


151219_sama (1ウL8)



 

(E)「ことも/こ&こ」(「須磨」9ウL3)


151219_kotomo




 これは、「ことゝも」と書いてしまい、すぐに「と」の次が踊り字ではないことに気づいたようです。「ことゝ」を「こと」となぞって、直下の「も」に続けた例です。
 翻字を「ことも/ことゝ&こと」と訂正したいと思います。
posted by genjiito at 23:56| Comment(0) | ◎源氏物語
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