2015年12月10日

日比谷でハーバード本「蜻蛉」巻を読む(その25)

 日比谷公園の中にある日比谷図書文化館は、すでに黄葉の絨毯の中にあります。


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 今日の翻字者育成講座は、まず「難波津」の歌を記した木簡が出土したニュースから。
 京都新聞・毎日新聞の記事を使って、先月の講座の翌日27日(金)に京都市埋蔵文化財研究所から発表された内容を確認しました。京都市内で発見された木簡には、「難波津」の歌がほぼ全文書かれていたのです。全文の文字が見つかったのは初めてのことです。
 その一部を拡大して掲示します。


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 ここには、「能」だけが変体仮名で書かれており、後は明治33年に一字に統制された現今の平仮名の字形や字母です。

 これまで、平仮名は女手といって、女性が作り育てて使っていたと説明してきました。
 しかし、9世紀後半の木簡に平仮名で書かれた「難波津」の歌が、しかも今回はその全文が見つかったのです。今の平仮名に非常に近いものです。
 この左側には、この歌の注釈かとも思われる文字列が書かれています(ここでは省略)。

 3年前の11月には、右大臣藤原良相(813〜867)の邸宅跡から、「ひとにくしとおもはれ(人憎しと思はれ)」と読めるもの等、平仮名40文字が書かれた皿が見つかりました。
 今回の木簡は、良相邸の皿よりも30年ほど新しいのではないか、とも言われています。
 となると、平仮名は女性の専売特許とは言えなくなりそうです。木簡に文字を書いていたのが、女性だったとは思えないからです。
 草仮名や平仮名がどのようにして完成形に至ったのか、今後の専門家の研究を待ちたいと思います。

 次に、変体仮名の国際標準化に関する資料が公開されたのを受けて、その簡単な説明をしました。
 変体仮名の国際文字コードの提案については、先々月10月19日から23日の間、島根県松江市において松江会議が開催されました。その報告が、IPA情報処理推進機構のページに、やっと掲載されました。

 以下のサイトから、議事録や会議報告などが読めますので、変体仮名の今後の動向に興味をお持ちの方はぜひご覧ください。

「平成27年度第2回 文字情報検討サブワーキンググループ」

 私も、十分に理解できていません。今日は、この報告書の一部を確認しただけです。今後の推移を見守ることにします。
 とにかく、日本の文字の使われ方において、今後は変体仮名が情報交換用の文字として社会生活に浸透することは明らかです。
 こうした動きを、文部科学省はどうするのでしょうか。いつまでも、我関知せず、で押し通すことはできないと思われます。
 その動向が、非常に気になるところです。

 『小説神髄』の初版本における、変体仮名の表記の確認もしました。


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 これまでに、明治4年の『学問のすゝめ』、昭和8年の『春琴抄』を見てきました。それに続いて、明治18年の『小説神髄』の冒頭部分を確認したのです。
 「に」が「尓」「丹」「仁」と、3種類もの字母で書き分けられています。この使い分けに何か法則性があるのか、専門家の説明を探しているところです。

 ハーバード本「蜻蛉」の翻字の確認については、21丁裏から22丁裏までを終えました。

 今日見たところで判断に窮した箇所は、次のような文字でした。


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 左端の「尓多る」(21ウL1)については、『ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「蜻蛉」』の翻字では「かたる」として、なぞられている「か」の下の文字は不明(△)とし、その右横に「に(傍記)」と書かれているとしました。
 しかし、その後の検討を経て、『国立歴史民俗博物館蔵『源氏物語』「鈴虫」』に巻末資料として収載した「変体仮名翻字版(「蜻蛉」)」では、「尓多る」として、なぞられている「尓」の下の文字は「可」とし、その右横に「尓」が傍記されている、と変更しました。
 このなぞりは、その墨の色から推測するに、本行を書写しているときにすぐに施したものではないように思われます。当座は「かたる」と書かれており、時間の経過があってからなぞりと傍記がなされたのではないか、と私は見ています。

 次の2例の「あ者れ尓」については、「者」と「尓」が紛らわしい字形となっています。
 「尓」は、その下の例にある「所れも」の「所」とも紛らわしいものです。
 その下段の隣に掲げた「者ゝ」についても、しばし考え込む字形です。
 「古ゝ」(22オL7)も、すぐには読み取れない字形です。
 「こと尓可」(22オL10)は、一文字ずつを切り分けるのが大変な文字列となっています。
 その下段の「こゝ」も、どこまでが一文字なのか困る例です。

 写本が読めるようになっても、常に判読に苦しむ文字はついて回ります。
 文章の流れや意味から判断することが、当座の解決策です。それでもすっきりしないときは、他の写本がどのような語句を伝えているかが、解決の糸口を与えてくれます。

 いずれにしても、一文字でも多く翻字をしておくと、こうした紛らわしい文字に出会ったときにも、参考になるはずです。

 場数を踏んで、さまざまな文字に対応できる柔軟な目力と、古典を読む力を養っていきましょう、ということに尽きそうです。

 帰りに乗り換える大手町駅では、少し休憩してから帰ることがあります。
 今日は電飾で飾られたツリーがきれいだったので、写真に収めて来ました。


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 上の階からも見ることができたので、高所恐怖症の私ですが身体の震えを我慢しながらシャッターを切りました。


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 気分転換に新鮮な空気を吸おうと戸外に出ると、粋なライトアップを目にしました。


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 おしゃれな東京を満喫してから、帰路につきました。
posted by genjiito at 23:58| Comment(0) | ◎NPO活動
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