2015年11月17日

読書雑記(145)船戸与一『風の払暁 満州国演義 1』

 いつか読もうと思いながら、全9巻ということでなかなか手がつけられなかった大作です。
 今夏、文庫本として刊行が開始されたのを機会に、少しずつ読み始めました。


151117_mansyu1




 開巻早々、荒っぽい描写です。
 プロローグに出てくる慶応四年の会津女は、この物語の中でどうつながっていくのでしょうか。第一巻を読み終わっても、まだわかりません。

 期待を持って、第一章、昭和三年の満州における敷島次郎の話を読み進めました。
 次郎は大陸浪人で、馬賊とでもいうべき青龍同盟の頭領です。無頼派なのです。

 今の日本人からは想像もできないほどの、スケールの大きな日本男児が、大陸の原野で大活躍します。
 それでいて、描写は繊細です。
 私は、月光が効果的に使われる場面が、絵のようにきれいなので気に入りました。
 荒々しさと静寂のブレンドがいいのです。

 大学生の四男敷島四郎は、演劇を通して知った左翼思想に傾斜しています。特高とのやりとりが見物です。

 長兄で東大出の太郎は外務省からロンドン大使館の参事官を経て、今は奉天の総領事館にいる官僚です。
 三男の三郎は、陸軍士官学校出で関東軍に配属され、奉天独立守備隊員となります。

 この四兄弟の個性的な動向とドラマチックな展開が、日本と満州を舞台として軽快に切り替わりながら語られていきます。
 息もつかせぬ物語で、本を手から話す暇が見つけられなくて困ります。

 張作霖爆殺事件が詳細に語られます。
 今の北朝鮮に接する延吉や吉林、そして長春に物語の舞台が移ると、数年前に行った地だけに語られている背景が具体的に思い描けます。
 そして、これらの地を両親が戦時中に歩いていたのですから、なおさら親近感を持って読み進めました。
 両親が満州にいた時のことは、「【復元】母子の絆の不可思議さ」(2010/4/29)と、「亡父の代わりに日本人墓地跡へ」(2010/1/17)に書いた通りです。

 今、第一巻を閉じました。
 物語の幕間に、大急ぎでこれを書いています。

 作者が次のように言っているのを見かけました。


従来の満州を語る姿勢を分類すると、ひとつは、ロマン説。新しい国家というのをまっさらに作り上げることの魅力だね。もうひとつは、侵略説。この二つの溝はとても埋められるようなものじゃない。どういうふうに満州国が出来上がっていったのかを語ること以外に解答はないんだ。ロマン説であろうが侵略説であろうが、意義を語るだけでは何の解決にもならないので、具体的な内実を語ることが必要だと思った。だから、断片的な事例や論を語るのではなく、これで満州の全てが丸ごと分かるような作品を書きたかった。(『波』2007.5「[船戸与一『満州国演義』刊行記念]だれも書いたことのない満州を」より)


 次の幕開けが楽しみです。
 書架にある第二巻に手を伸ばし、これからブックカバーを掛けることにします。
 このシリーズ全9巻は、2015年4月22日に亡くなった船戸与一の遺作です。【5】

2007年4月、新潮社刊
2015年8月、新潮文庫
posted by genjiito at 21:54| Comment(0) | ■読書雑記
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]