朴先生とは、『源氏物語』の注解を掲載した『文華』を毎号送っていただいた折々に、メールで連絡をとっていました。そして、2010年7月に国文学研究資料館に外来研究員としてお越しになった時に、直接お目にかかりました。この時のことは、「朴光華先生のハングル訳『源氏物語』」(2010/7/5)に詳しく書いた通りです。
本当に短い期間のご一緒でした。その後も、倦まず弛まず研究を続けられ、こうしてその成果の一部が広く公刊されたのです。
これまでの朴先生のご苦労は、本書の編集後記に刻まれています。
後 記
この『源氏物語一韓国語訳注一』(桐壺巻)は、2002年1月1日に「文華」(創刊号)という雑誌を通じて初めて発刊されたものである。当時は『源氏物語韓釈一桐壺一』(日本文学研究会)という題目でこの世に出た。その後、十三年程度経った今日、ようやくこれに相当な注釈を施して発刊することになった。創刊号「文華」の桐壺巻を今になって見ると、あまりにも情けなくて間違ったことも多数ある。その後「文華」という雑誌を十二号(2013年1月1日)まで発刊しながら、多くの試行錯誤を重ねて、今日、このように『源氏物語一韓国語訳注一』(桐壺巻)という書としてまとめることができた。実は、この桐壺巻も2014年6月にあらためて作業を始めて、今年の8月にやっと完成にまで至ったものである。もともとこの桐壺巻は、3月に発刊の予定であったが、進行過程がすんなりいかなくて8月に出るようになった。2002年以来、『源氏物語』の韓国語訳・注釈という多くの試行錯誤、経験などが積み重なった結果、このようにして出来上がった書である。
誰々の『源氏物語』外語語翻訳書等々が言われているが、私は信じてない。また、よく分からない。何をどのようにして翻訳したのかよく分からない。近代文学者の『源氏物語』口語訳をみてそのまま訳したのかどうか、分からない。私としては、この桐壺一巻を翻訳してそして注釈をつけるのに一年程度かかったし、以前の「文華」という雑誌の発刊期間の経験十数年をあわせて辛うじてこぎつけた書である。そんなに簡単に外語語で翻訳され、そして注釈などがつけられる『源氏物語』ではない。むかし、日本留学時節(ママ)ちらっと聞いた話がある。「外国人研究者のうち『源氏物語』についてまともな論文が書ける者はひとりもいない云々」と聞いたことがあるが、それは事実である。以前から、いままでずっと感じてきたことである。留学生時節(ママ)から『源氏物語』に関する論文などを書き続けてきた筆者としても、心に深く感じている事実である。実際に『源氏物語』についてまともな論文一編が書けない。それであろうか、このような韓国語翻訳と注釈がそれより多少やりやすかった作業であったかもしれない。
本書は自費で100部限定として発刊した。今の韓国内の出版事情では、この『源氏物語』五十四巻を発刊するのには、その事情があまりにも不如意であるように見える。また『源氏物語』についての認識もそんなに高くないようにもうかがわれる。この『源氏物語一韓国語訳注一』は前期、後期に分けて発刊する予定で、所要期間は十四年である。まず前期の第1期発刊は、桐壺巻、夕顔巻、若紫巻、須磨巻、明石巻、総角巻、浮舟巻などが順次的で発刊される予定で、各巻ごとに諸先生方の論考が掲載されることになっている。この桐壺巻には伊井春樹先生が「桐壺院の贈罪」という論考をお書き送って下さった。「阪急文化財団理事・館長」という多忙な時にこのような玉稿を送って下さったことに深く感謝を差し上げる。次は夕顔巻で、糸井通浩先生の論考が予定されている。
本書は最初から後世に残すために執筆した。この桐壺巻はSに差し上げる。
2015年8月1日 朴 光華
引用文中の赤字は、私が色付けしたものです。
とにかく、続刊が待たれます。
そして、『源氏物語』全巻の注解が進捗することを祈っています。
本書は、次の構成で成っています。
巻頭写真4枚(著者近影、宮内庁書陵部蔵 桐壺巻頭、尾州家河内本 桐壺巻頭、紫式部の墓、『源氏物語大成』池田亀鑑の藤村作への献辞)
1.序
2.目次
3.凡例
4.桐壺巻の概要と系図
5.桐壺巻(日本語本文、韓国語訳、韓国語注)
6.源氏物語について(ハングル)[1](朴光華)
7.桐壺院の賊罪(伊井春樹)
8.後記(日本語)
9.図録1〜6
本書の基本となる「日本語本文、韓国語訳、韓国語注」の組み方は、次のようになっています。
これは、『文華』での組みとほぼ同じ体裁です。
この訳注は、以下の研究成果が参照されている労作です。
『日本古典文学全書一』(池田麺鑑。朝日新聞社。昭和41年 第21版)─『全書』
『日本古典文学大系一』(山岸徳平。岩波書店。1989年 第35刷)─『大系』
『源氏物語評釈第一巻』(玉上琢彌。角川書店。平成5年 20版)─『評釈』
『日本古典文学全集一』(阿部秋生、今井源衛、秋山度。小学館。1989年 第25版 昭和45年 初版)─『全集』
『目本古典文学集成一』(石田穣二、清水好子。新潮社。昭和51年)─『集成』
『新日本古典文学大系一』(柳井滋、室伏信助、大朝雄二、鈴木日出男、藤井貞和、今西祐一郎。岩波書店。1993年 第一刷)─『新大系』
ここで気づくことは、参照した書籍が「第何版」とか「第何刷」であるかを明示されていることです。
国文学研究資料館にお出での折にも、市販の注釈書は勝手に改訂補訂されるので、それを参照引用する時には、自分がどの版を使用したのかを明確にすべきであることをお話しました。
それをこのように忠実に実行しておられのを拝見して、先生らしい学問に真摯な姿勢を実感しています。
私には、記されているハングルはまったく理解できません。しかし、この朴先生のお人柄を反映した、すばらしい訳注となっていることでしょう。
このような感想を記すだけでは申し訳ないので、東京大学で田村隆先生の指導を受けている留学生の厳教欽君に、本書の紹介文をお願いしました。
田村先生も厳教欽君本人も了解していただけたので、近日中に本書についてのあらましをお伝えできると思います。
これは、私の科研で発行している「海外平安文学研究ジャーナル」に掲載することになっています。しかし、それでは少し時間が空きますので、私のブログから先行公開し、読者からの教示や意見などを踏まえて補訂した後に収録する、という手法をとりますので、ご理解とご協力のほどをよろしくお願いいたします。
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