2015年08月18日

藤田宜永通読(23)『ダブル・スチール』

 藤田宜永の『ダブル・スチール』(1995年7月、光文社文庫)は、長編ハードボイルドとされる作品です。かつて読んだ本を取り出してきて通読しました。ワンシーンとして、まったく話を覚えていないのは、私の注意力が散漫だったのか、この分野の小説が持つ特徴なのか、こうした読み直しをする中でわかるのかもしれません。今は、読み捨てされる性格の分野の小説だから、ということにしておきます。


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 パリを舞台にした、ヤクザの世界が荒々しく活写される中で、殴る蹴るの場面や、銃弾が炸裂します。体言止めの文章が各所に見られ、テンポよく活劇が展開します。

 主人公は本多陽一郎。渾名はヨヨで47歳。オペラ座近くに日本料理店「スバル」を経営しています。ただし、これは仮の姿です。

 本多の相棒は、3つ若いサティ。
 仲間のルイジが殺されたことで、ボスのコロンボやその手下たちに疑念を抱きます。誰が内通しているのか、謎解きがアクションドラマに絡んで展開します。

 パリを知り尽くした作者だけに、街中を自在に移動し、郊外へも案内してもらえます。生活感のある描写は、人物を活き活きと立ち回らせているのです。藤田宜永の筆が冴えわたるところです。

 本作では、ヤクザの抗争と野球への思い入れが、共におもしろく展開するものの、うまく絡み合っていないように感じました。
 2つの話は、共に読み応えのある力作と言えます。しかし、その2つがバラバラなのです。うまく1つの話として絡み合いません。その間をつなぐ女性の役割も描写も、中途半端です。

 特に野球に関しては、無理に手荒な男の世界に取り込もうとするところが気になりました。
 野球の八百長という話題も、発表当時はともかく、今では色褪せていて背景で主人公を突き動かす原動力としては読めません。その八百長に関連して点描される元妻も、その存在が曖昧です。

 藤田宜永が描く女性に、私は興味を持っています。後に恋愛小説に手を染めます。しかし、それが純愛を求めたこともあり、ことごとく失敗するのは、こうした初期の描写に胚胎しているように思っています。この点は、この「藤田宜永通読」を通して考えていきます。

 それでも話はおもしろいので、藤田の作品は一気に読めます。本作も、まさに作者が書名にしたダブルスチールの意図とは別の意味で、2つの話題が織りなすダブルスチールは成功します。ただし、得点には結び付かなかった、と言えるでしょう。

 最後のドラマチックな終わり方は、藤田宜永が初期に示した、切れ味のよさを代表するものです。【3】

※参考書誌情報
 1988年8月 角川文庫/1995年7月 光文社文庫
posted by genjiito at 22:02| Comment(0) | □藤田通読
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