2015年07月30日

古写本『源氏物語』が触読できる全盲の渡辺さんとの一日(1)

 福島県立盲学校高等部の渡辺寛子先生が、科研の触読研究に協力してくださっています。
 先般お送りしたハーバード大学本「須磨」巻の巻頭部を、苦労の末とはいえ読めるようになった、とのことでした。このことは、本ブログの「古写本『源氏物語』の触読【成果の記録】(盲学校の先生の場合)」(2015年07月14日)で報告した通りです。

 そこで早速、直接お会いして話を伺うことにしました。

 今日は、猛暑の中を上京してくださったので、日比谷図書文化館でいろいろな実験にお付き合いいただきました。初対面にもかかわらず、午後2時半から6時までの長時間にわたって、語り、触読し、コーヒーを口にし、意見交換をしました。その後には、スパゲッティを口に運んだりしながら、また立体コピーの活用方法や触読の教育実習システムを作り上げることについて語り合いました。

 私にとっては、つい最近まで信じられなかったことを間近にして、自分のこの目で確認することができました。そして、予想を遥かにこえた、大きな成果を実見することとなりました。
 とにかく、変体仮名で書写された鎌倉時代中期のハーバード大学本を、光をまったく感じられなくなった渡辺先生が読まれるのです。
 こんな日がいつかは、とは思っていました。それが、何と今日だったのです。
 お互いに、得難い有意義な体験の共有と情報交換ができました。

 こんな日が、こんなに早く来ようとは、誰が予想できたでしょうか。
 このことにより、さらなる課題も見えてきました。
 渡辺先生は特別だから、ということで終わらないようにするためにも、より一般化した「変体仮名翻字版」の学習習得プログラムを構築することに向かって進むことにします。

 詳しくは、後日公開する、触読研究のホームページを通して報告しますので、今しばらくお待ちください。

 お話を伺っていて、失明される前から書道をなさっていたことが、古写本『源氏物語』を触読できる大きな力となっていることを痛感しました。
 もちろん、大学時代から古典文学の研究をなさっていたことがそのベースにあることは言うまでもありません。
 いやいや、知的好奇心も忘れてはいけません。

 今日は、たくさんの触読資料を触っていただきました。立体コピーや木刻文字に紙の切り抜き文字などなど、実にさまざまでした。

 立体コピーにしても、さまざまな大きさのものを用意していました。
 結局は、1面10行の枡型本の5行分を、A4版用紙に縦いっぱいに立体コピーしたものが一番いいことがわかりました。


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 木刻文字や切り抜き文字も、さまざまな触読に関する意見を聞くのに、有効な小道具となりました。
 この文字を削り出し、抜き出した科研運用補助員の関口祐未さんの苦労は、目には見えないながらもその効果は絶大でした。触常者の興味とやる気を引き出します。そして何よりも、人を饒舌にする小道具でもあります。


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 「変体仮名」とは異なり、活字のひらがなについても触読してもらいました。


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 これについては、48ポイントの文字が一番触読しやすい、との結論を得ました。

 図書館などのカウンターで、この文字の大きさに拡大した立体コピーを作成すれば、今すぐにでも視覚障害者がひらがなの本文とひらがなのルビを頼りにして、自分の意思で自由に読書ができます。
 誰に遠慮することもなく、自分のペースで、同じところを何度でも読むことができるのです。

 1日も早い実用化に向けて、さらなる研究を展開したいと思っています。

 なお、視覚障害者向けの音声教材を開発実験しておられる先生の情報もいただきました。
 また連絡をして、アドバイスをいただきたいと思います。

 この古写本の触読に関する研究は、まだまだ発展して行きそうです。
 これまでにも増して、さらなるご理解とご協力を、幅広い分野の方々にお願いしているところです。

 それにしても、いいタイミングで渡辺先生と出会えたことに感謝しています。
 これは、先般、札幌で開催された日本盲教育史研究会に参加した折に、指田先生など多くの方々とお話しできたことによる、人と人が結ぶ縁で生まれた成果です。
 みなさま、本当にありがとうございます。
posted by genjiito at 23:57| Comment(0) | ◎源氏物語
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