2015年07月23日

古写本『源氏物語』を触読するための立体コピーの新版作成

 目の不自由な方々が変体仮名で書かれた『源氏物語』を読めるようになれば、と、さまざまな取り組みを試行錯誤しています。

 本日、触読のための新しいパターンの資料をいくつか作成しましたので、アドバイスをいただく意味からも、ここに取り上げて紹介します。

 今回も、立川市中央図書館のハンディーキャップサービス担当の福島さんと早坂さんのご理解とご協力を得て、以下のような試作版を作りました。

(0)立体コピーによる触読資料は、A4版のカプセルペーパー(松本油脂製の浮き出し用紙)で作成することを原則としています。
 資料の大きさをA4に統一することは、資料の保管と閲覧の便宜を最優先させて決めました。

(1)カラー版の試作
 まず、ハーバード大学本『源氏物語』「蜻蛉」巻の14丁裏と15丁表を、カラー版で立体コピーを作成しました。
 この巻のなかでもこの場所を選んだのは、来週7月30日に日比谷図書文化館で開催される翻字者育成講座で、ここから読み進める予定の箇所だからです。他意はありません。


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 写真では、文字の浮き上がり具合が不鮮明です。しかし実際には、文字は浮き上がっています。もっとも、その浮き上がり具合は、以下のものよりも格段に低いものです。

 背景の水が滲みた所のキワの線や、汚れなどは、触読には何ら影響がありませんでした。用紙に塗布された薬品が、敏感に反応しなかったことが幸いしています。ただし、これは原寸で作成しただけのものなので、今後はさらに拡大したものでも実験をすることにします。

 カラーで立体コピーを作成したのは、白黒と違い、色の微妙な差が文字の浮き出し具合に影響しないか、と思ったからです。次回、以下に揚げるようなパターンを、カラーでも作成したいと思います。微妙に文字の浮き具合が異なるようなのです。

(2)14丁裏のカラー版(122%拡大)
 この拡大比率は、原本の10行がA4版の横幅一杯に入ることを最低条件として設定したものです。
 このカラー版は、背景処理をしてから立体コピーにかけたものです。次の(3)は白黒版なので、それと比べると、カラー版の方が微妙な反応を見せているようです。強弱が滑らかに変化しており、指への感触が柔らかいことがわかります。
 どちらが触常者にとって読みやすいのかは、これから実験を進める中で実証していきたいと思います。


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(3)14丁裏の白黒版(122%拡大)
 これは、上の(2)と比べると、文字がくっきりと浮き上がっています。
 触読しやすいように思われます。しかし、実際に一人でも多くの方に触っていただくことで、最終的な判断をしたいと思います。


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(4)14丁裏の白黒版(150%拡大)の右側5行分(前半)
 上掲(3)をさらに拡大し、上下をA4用紙一杯まで入るようにコピーしたものです。
 文字が大きくなったために、行間も開き、原本の10行分が1枚のA4用紙に入りません。そのために、左右それぞれ5行づつを立体コピーにして作成しました。


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(5)14丁裏の白黒版(150%拡大)の左側5行分(後半)
 上掲(4)に続いて左側となる5行分です。


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 15丁表も、14丁裏と同じように立体コピーを作成しました。しかし、ほとんど同じ形式のものなので、ここでは掲載を省略します。

(6)変体仮名を習得するのに役立つと思われる文字のパターン(字体)を、五十音順に立体文字にして並べてみました。


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 今回、参考資料として使用したのは、『影印本シリーズ 増補改訂 仮名変体集』(伊地知鉄男編、平成25年10月47刷、新典社)です。これは、既刊の40種類以上の変体仮名関連の書籍から、当面の用途に最適だと判断して選定し、そこから採字をしたものです。
 これは、14頁もの分量になっています。これでは資料としての枚数が多すぎます。触常者には、今しばらくはこれで変体仮名のパターンを習熟していただき、反応や意見を参考にして、さらによりよいコンパクトな字体集の作成に向けて展開していきたいと思います。
 ここで、字体集としてどの字母を選ぶかは、鎌倉時代中期に書写されたハーバード大学本によく出てくる文字を基本として、伊藤が独断で選定し構成しています。室町時代や江戸時代の古写本を読むために選んだ仮名文字ではないので、その点をあらかじめご了解いただきたいと思います。

(7)現行のひらがなである「あ」と「お」を、さまざまな大きさで立体文字にしました。
 触常者にとっては、ゴシック体が読みやすいということを伺っていたので、今回は「HG平成丸ゴシックW4」を使用しています。


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 現行の書籍などの印刷物で、ルビが多く付された本を触読することは、2人の全盲の方が実証してくださったので比較的容易であることが判明しました。変体仮名の触読ではなくて、下位レベルでの触読訓練のための情報を得ようとして、この資料を作成しました。
 この2文字はよく似ているので、触読の可否を判断するのに好例だと思います。

 今後は、どの大きさの平仮名活字が触読に最適かを、折々に調査していきたいと思います。
 ただし、これはあくまでも参考資料とするものであり、当面は変体仮名で700年前に書写されたハーバード大学本『源氏物語』を読むことが最優先課題であることに変わりはありません。
 
 今回、立川市中央図書館で作成した触読資料は、来週の30日に日比谷図書文化館で触読実験を行います。その後で、さらに詳しい報告を本ブログに掲載しますので、お楽しみにお待ちください。

 さて、この触読資料が今後ともさらにどのような成果を生むのか、ますます楽しみになりました。

 なお、触読資料作成にあたっては、科研における「挑戦的萌芽研究」の「視覚障害者と共に古写本の仮名文字を読み日本古典文化を共有するための挑戦的調査研究」で、科研運用補助員として国文研に来てもらっている関口祐未さんの貢献が大であることを明記しておきます。
posted by genjiito at 23:55| Comment(0) | ■視覚障害
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