暗くて哀しい瞽女さんの物語として、自分勝手な先入観を持っていたせいか、読む機会を逸していました。一気に読み終わった今、人間の透き通るような美しさが描き出されていたことで、作者の表現の妙に感心しています。そして、今はその存在が見えなくなっている瞽女という人々の姿を、あらためて考えるようになりました。
本作では、貧しさの中で必死に生きていく女と男が、純粋な心の持ち主としてとして語られます。
複雑な社会と過酷な風土を背景として、おりんも平太郎も共に、はみ出した道を歩んでいくのです。
北陸から若狭を舞台とする、哀切極まりない語り口に、終始圧倒されて読みました。
作者は、若狭に生まれ育った自分の体験を元にして、自分なりの瞽女の実態をまず語ります。
これは、瞽女のありようを理解するのに、簡潔でわかりやすい解説となっています。
話は越後瞽女へと移ります。その中には、「はぐれ瞽女」「はなれ瞽女」「落し瞽女」といって、掟を破り男と交わったりして仲間外れになった瞽女がいました。本話の主人公であるおりんがそれです。明治30年代の話です。
瞽女を語る作者の温かな眼差しが、行間から伝わって来ます。
この物語に横溢する美しさは、その構成と語り口に依るものだと思います。
中でも、おりんが17歳で月のものを見てからは、大人になった瞽女の様子が克明に語られます。
本作における読みどころの一つです。
さらには、おりんにとっては思いがけないことながら、旅先で男の夜襲に遭遇し、はなれ瞽女になって落ちるくだりも見逃せません。
その中に、「瞽女式目」が出てきます。
「謹んで惟うらく、人王五十二代嵯峨天皇第四の宮、女宮にて相模の姫宮瞽女一派の元祖とならせ給う。かたじけなくも、下賀茂大明神、末世の盲人をふびんとおぼしめされ、かたじけなくもおことのはらにやどらせ玉い、胎内より御目めしいて御誕生ましし、父大王、母后、神社仏閣の御祈祷これあるといえども、大願成就の種なれば、更に甲斐あらず。」(137頁)
過般、「読書雑記(119)ジェラルド・グローマー『瞽女うた』を読んで」(2015年03月16日)でも、加茂大明神のことをメモとして記しました。ここでは、下賀茂大明神となっています。
このことは、まだ何も調べていません。もうしばらく課題として持っておきます。
下駄職人の平太郎と出会った後は、2人の道行き語りとなります。
後半で警察が顔を出すようになってから、俄然サスペンサタッチになります。話がおもしろくなるのです。それでいて、おりんはまったく変わりません。また、目が見えないことが却って話を自然にしています。
おりんの『口伝』を随所に使い、聞き語りの手法を生かして物語っています。柔らかな語り口の中に、人間を見据えた鋭い観察眼が感じられました。
また、北陸地方への愛着も滲み出ています。
はなれ瞽女おりんは、純粋な心を持った女性として、美しく描き出されています。【5】
本作は、昭和50年9月に新潮社より刊行されました。
【■読書雑記の最新記事】
- 読書雑記(362)中野信子『フェイク』
- 読書雑記(361)村田英治『『砂の器』と..
- 読書雑記(360)安達未来『締め切りより..
- 読書雑記(359)アップル愛に欠ける『ス..
- 読書雑記(358)渡辺都『お茶の味』
- 読書雑記(357)水野敬也『夢をかなえる..
- 読書雑記(356)箕輪厚介『死ぬこと以外..
- 読書雑記(355)「平安時代の文学作品と..
- 読書雑記(354)麻田雅文『日ソ戦争』
- 読書雑記(353)樋口清之『関東人と関西..
- 読書雑記(352)矢部太郎『マンガ ぼけ..
- 読書雑記(351)小松亜由美『イシュタム..
- 読書雑記(350)永井みみ『ミシンと金魚..
- 読書雑記(349)高原英理『不機嫌な姫と..
- 読書雑記(348)広瀬浩二郎・相良啓子『..
- 読書雑記(347)コナン・ドイル『緋色の..
- 読書雑記(346)望月麻衣『京都寺町三条..
- 読書雑記(345)望月麻衣『京都寺町三条..
- 読書雑記(344)谷合侑『盲人の歴史』
- 読書雑記(343)山口謡司『あ" 教科書..
