2015年02月27日

京都駅前で充実した時間を過ごす

 民族学博物館の広瀬浩二郎さんと、京都駅前東のメルパルクで食事をしながら、目の不自由な方と一緒に『源氏物語』の写本を読むことで、今後の検討課題について打ち合わせや相談をしました。

 今日は、昨日出来たばかりの、木の板に凸字を浮き上がらせた試作品を触ってもらいました。
 これは、目が見えない方にも古写本『源氏物語』が読める環境を構築しよう、というテーマに協力していただいている、関口裕未さんの労作です。


150228_hiraganaa




 左は、墨で書いた雰囲気を残しながら、線の重なり具合に段差を設けています。
 右は、2画目の縦棒が、曲線ではなくて直線にしてあります。

 関口さんは、明治大学で日向一雅先生のご指導を受けられた方です。三省堂の『現代新国語辞典』の監修者の一人でもあり、言葉や文字に関して斬新で興味深い提案を数多くいただいています。その1つの実作の成果が、この試作品です。
 実際に板に平仮名を彫ることで、少しずつ手応えを得ながら試行錯誤を重ねて進んでいるところなのです。

 広瀬さんからは、触常者の立場から多くのアドバイスをいただきました。
 板に刻まれた文字が、3段階の高さになっていることは、非常にユニークだとのことでした。
 また、墨の濃淡や太い細いなどが指先に伝わって来る造作なので、手書き文字の感触や風合いを感得する意味ではよくできている、とのことでした。
 実際には、「あ・い・う・え・お」まで出来ています。
 また、仮名文字の説明文も、関口さんは作っておられます。
 例えば、「あ」はこんな具合です。


◇現在の平仮名「あ」の説明
三画
 @ 左から右へ横線。
 A 一画目横線の真ん中を通って、長い縦線。
 B 一画目横線の終わりの下のあたりから、左下ななめに下がる。このとき、線の始めは、後で書く曲線とすぐに交わり、縦線の下の方を通って左下ななめに下がる。線はそのまま左上ななめに短く上がってから、丸を書くように、右上ななめに少しずつ上がり、縦線の真ん中を通って、線の始めも通ってから、右下ななめ、左下ななめと下がり、大きな曲線を書く。
◎特徴
 二画目縦線の左側は、曲線の内側に楕円形の半円ができる。縦線の右側は、線の内側に小さな逆三角形ができる。
※木刻凸字では、三画目の形が、なぞってもなかなかイメージしにくいので、同じ線の形「の」「め」「ぬ」と一緒に学習すると分かりやすいかもしれません。


 この説明に対して、広瀬さんは、よくわかる説明だと感心しておられました。ただし、詳しすぎるので、実際に木刻凸字を触りながら耳からこの説明を聞くのであれば、もっと簡単な短い説明文で大丈夫だ、とも。また、線が流れる方向は、時計の針が指す方向で説明すれば十分に伝わるそうです。

 こうして、目が見えなくても自学自習で平仮名を触読できる環境を、着実に構築しています。
 とにかく、何でもやってみよう、ということで取り組んでいますので、何かひらめきがありましたら、ご教示いただけると助かります。

 今は木の感触を大切にしています。しかし、3Dプリンタが普及すれば、もっと精巧な文字を浮き上がらせることも可能となることでしょう。
 そうは言っても、やはり木の風合いは大事にしたいと思っていますが……

 この「あ」を見ていると、今から32年前に父の川柳句集『ひとつぶのむぎ』の私家版を自宅で作成したことを思い出しました。あの時は、NECのPC-8822という漢字プリンタを使って印字したものを版下にしたものです。それは、1つの文字を16×16の点で印字するプリンタでした。実際には、縦に8本のピンが少しズレて2列あり、それで16の点が一列にあるかのように見える仕掛けになっていました。
 その印字例をあげます。インクが紙に染み込んでいることと、シルクスクリーンによるオフセット印刷なので、文字が滲んだ感じなのはそのせいです。


150228_16dota




 そして、この文字を見ている内に、最近私が使い出した多機能型点字ディスプレイ「ブレイルメモ スマート16」の点字表示部に連想が至りました。


150228_braillememo1




 この点字表示部は、1マスに4つのピンが2列ずつ並んでいて、1行で16文字の表示ができます。このピンが出たり入ったりすることで、点字を表示するのです。そのピンの動きを見ていて、かつての16ピンのドットプリンタが文字を印字していた時のことを思い出したのです。

 そこで、この「ブレイルメモ スマート16」を縦に置いてみました。
 2マスに平仮名1文字を表示すれば、そのまま縦に指を這わせると、写本をなぞることに通ずることに気付いたのです。


150228_braillememo2




 そのことを広瀬さんに話すと、平仮名という文字を認識できるかどうかは別として、横に表示されていく点字を読む機械を縦にする発想をおもしろがってくれました。
 これは、意外といい線をいく思いつきだということで、今後の可能性が膨らみ、話も弾んでいきました。

 今日の広瀬さんの反応を見たところでは、目が見えなくても古写本に筆で書かれた仮名文字は読むことが出来る、という感触を得ました。今後とも、さらなるチャレンジをしていきたいと思います。

 時間が来たので、そのままメルパルクの上階で開催された、総合研究大学院大学の教授会に一緒に行きました。

 終わるとすぐに、駅前西のキャンパスプラザ京都で、伊藤科研(A)の研究会です。
 教授会が予定よりも大幅に延びたので、遅れて駆けつけることになりました。
 関西のメンバーの方々との情報交換を兼ねた、本年度の成果報告会でもあります。

 その席上、清水婦久子先生がご所蔵の、末松謙澄が英訳した『源氏物語』の初版本を見せてくださいました。これは珍しい本です。


150228_suematu1





150228_suematu2




 ちょうど、ラリー・ウォーカー先生が末松謙澄訳『源氏物語』の話をしてくださったこともあり、みんなで手に取って本の手触りを実感しました。
 この科研にふさわしいエピソードとなりました。

 ひき続き駅前で懇談会。時間を忘れて、22時近くまで語り合いました。
 荒木浩先生と海野圭介先生は、共にご多忙の中を教授会終了後に駆けつけてくださいました。そして、研究会が終わると、すぐにまた次の仕事へと向かわれました。
 みなさんお忙しい中にもかかわらず、少しでも時間を割いて参加していただき、本当にありがとうございました。

 目が回るほどの忙しさながら、今日も充実した1日となりました。
posted by genjiito at 23:58| Comment(0) | ◎源氏物語
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]