2015年02月09日

藤田宜永通読(22)『モダン東京3 哀しき偶然』

 『モダン東京3 哀しき偶然』(2002年1月、小学館文庫)は、探偵・的矢健太郎シリーズの第3集です。
 本作は『モダン東京小夜曲』(1988年6月 集英社文庫、1996年9月 朝日新聞社)として刊行された作品を『哀しき偶然』と改題し、モダン東京シリーズの第3作とされるものです。


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 すでに「藤田宜永通読(21)『モダン東京2 美しき屍』」(2014年09月23日)に書いたように、モダン東京・探偵的矢健太郎シリーズの第1作は『蒼ざめた街』(1996年7月 朝日新聞社、2000年11月 小学館文庫)とされています。それは、『蒼ざめた街』が『モダン東京3 哀しき偶然』よりも8年後に刊行されたにもかかわらず、その時代設定が前作の『美しき屍』よりも古いことによります。あくまでも、作品内を流れる時間順に、シリーズの順番をつけただけのことですが。

 『モダン東京2 美しき屍』は、昭和5・6年の東京を舞台とするものでした。本作『モダン東京3 哀しき偶然』は、昭和7年を背景にして語られます。
 満州をその背景に置くのは、この時代を感じさせるものにしたかったからでしょう。ただし、それは成功していません。最後まで、満州ネタは消化不良のままです。物語展開にうまく絡めることができなかったのは、非常に惜しいことでした。

 アメリカで探偵の助手をして帰国した的矢健太郎は、秘密探偵として昭和初期の東京の街を愛車シトロエンで調査に犯人探しにと走り回ります。
 そのシトロエンで軽快に幕開けです。

 本作も25章立てという、細かい小見出しが付されています。テンポよく展開する証です。
 会話のテンポもいいのは、初期の藤田作品の特徴です。

 開巻早々、渋谷の古びた屋敷に少年ギャング団が窃盗に入ります。この場面を読み進みながら、それが昭和初期ではなくて、私には現在の平成日本の空き家事情に連想が結びつきました。
 今、空き家が全国的に増え、地方に限らず都会の廃屋にも盗みに入る族が多くなったそうです。そうした最近のニュースを思い出し、時を隔てて二重写しになったのです。80年以上も前と今がイメージとして結びつくのは、何か共通する要素がありそうです。が、今は措いておきます。

 物語は殺人事件へと展開し、探偵・的矢健太郎の動きが活発になります。昭和になったばかりの時代を背負って動き回る探偵の姿は、おもしろい進展の中で活写されます。欲を言えば、もっと土ぼこりが立ち上がる描写があればよかったのに、と思います。

 昭和初期の渋谷、六本木、銀座、神楽坂、大森などの様子が描かれます。ただし、調べた知識に留まっていて、生活実感が盛り込まれていないのが残念です。昭和初年を今に実感を伴って語り伝えるためには、生活感と土ぼこりは必須です。

 それでも、東京を愛車で移動する時に、地名や目印となる建物名が列記されると、昭和7年の首都東京を眼前に再現できそうで、タイムスリップの擬似体験が味わえます。このあたりは、藤田宜永の筆は精緻に描いていきます。

 事件の背景が見えてくるにしたがって、さらにテンポがよくなり加速します。藤田ワールドです。

 渋谷や銀座や大森の話になると、私自身が生活体験があり知っている場所なので、つい惹かれて読むスピードが上がります。

 ただし、最後のシーンは強引な幕引きと言わざるをえません。無理をし過ぎです。藤田の最後の詰めの甘さが、この初期の作品からあったことを実感しました。読者としては、最後にそれではがっかりです。乱暴です。もっと丁寧に話を納めてほしいものです。

 そうであっても、本作でも登場人物たちの、それも男の純粋な想いは伝わってきました。男の心が描けるところが、藤田宜永の一番いいところです。ただし、恋愛感情に関しては、あまり評価をしません。
 くどいようですが、素材の未消化は今後の作品に生かされることになる、という期待として残しておくことにします。【2】

 なお、この作品の舞台を歩いた東京紅團の「藤田宜永のモダン東京「哀しき偶然」を歩く 初版2002年6月29日 V01L03」は、本作の背景をリアルに炙り出してくれます。読後にこのサイトを拝見し、いろいろとイメージが豊かになりました。楽しい現代の文学散歩ができました。貴重な報告を、ありがとうございました。
posted by genjiito at 22:20| Comment(0) | □藤田通読
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