2015年01月16日

昨日の「変体仮名混合版」の具体例と確認

 昨日の記事の「変体仮名混合版」について、説明不足だったようなので、もう少し具体的に記します。
 これは、実際に翻字作業をなさっているみなさんとの、情報の共有も兼ねています。

 ハーバード大学本「蜻蛉」の1丁ウラの2行目に字母で示すと「身越」が、6行目には「身衣寸」という文字が書写されています。


150116_mi




 これは、従来の翻字では「身を」「みえす」としていました。それを今後は、「身越」「身えす」にしよう、ということです。

 特に6行目をこれまでのように「みえす」にしていたのでは、写本にどのような仮名が書かれていたのかがわかりません。「み」には、次の4つの可能性が考えられるからです。

(1)「美」
(2)「見」
(3)「三」
(4)「身」

 一般的には、現在の平仮名「み」の字母である「美」と類推されます。しかし、「三」の場合も多く、意味から考えると、ここは「見ることができない」という文意であることから「見」だったかとも思われます。しかし、実際には「見」でも「美」でも「三」でもなくて、「身」なのです。

 つまり、2行目の「身越」は「身投げ」の意味なので漢字のままの表記で問題はありません。
 しかし、6行目の「身」は変体仮名としての「mi」の音を示す「身」なのです。
 そこで、新しい翻字では「身えす」とするのです。漢字表記としての「身」と、変体仮名としての「身」が混在しています。しかし、元の写本に戻れる翻字を心がける主旨からは、「身」が最も適切な翻字となります。

 このようにして、現行の1字に1音しか認めていない明治33年以来の平仮名の使用環境では、翻字から写本に書写されている実際の状況が復元できなかった問題が解消するのです。
 つまり、近現代の用字法に合わせた現行の翻字では、どうしても不正確で矛盾するものに留まっていたのです。
 次の世代に、こうした不正確な翻字を受け渡していいはずがありません。

 こうしたことから、今回、変体仮名として用いられている文字については、その字母で翻字することにしました。
 書写された文字の字母が現行の平仮名と同じ場合には、これまで通りに翻字します。
 そして、現行の平仮名と字母が異なる場合は、当該文字の字母である漢字で翻字することになります。

 その際、例えば「の」という文字が、明らかに字母である漢字の「乃」と明確に書かれていても、これは「乃」とせずに「の」とします。
 無限に変形変化する仮名文字を、どのレベルの崩し方かを見極めて区別するのは、無用の混乱を招き、翻字作業が遅滞する原因となるからです。
 この件に関しては、説明が必要になった折々に、この場で取り上げることにします。
posted by genjiito at 23:35| Comment(0) | ◎源氏物語
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