2014年12月17日

読書雑記(116)清水義範『秘湯中の秘湯』

 『秘湯中の秘湯』(清水義範、新潮文庫)をやっと入手して読みました。


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 中部大学の蜂矢真郷先生から本書のことをご教示いただいたのは今夏でした。気にかけながら書店を探しても、絶版とのことでなかなか本屋さんで売れ残ったものが見つからないのです。
 検索をしていたら、たまたまネットで見かけました。しかし、私はネットショッピングは日本文化を破壊し、人間関係を断ち切るおぞましい仕掛けだという信念を持っているので、よほどのことがない限り欲しい品物があってもネットでは買いません。

 とにかく、自力で現物を手にして買うように心がけているのです。この、自分の足で探すことに無上の楽しさを感じます。ほしいものとの出会いは感動的であり、見つけた時の嬉しいことといったらありません。
 そんなある日、宿舎の近くのブックオフに行くと、108円の棚に『秘湯中の秘湯』が並んでいました。捜しあぐねていた本が、なんと108円なのです。ラッキーとばかりに購入し、すぐに読みました。

 本書は、論理的な考察や客観的な報告を心掛けて語っているものです。その真摯な姿勢が行間に溢れているので、おもしろい読み物となっています。
 ただし、ことばに拘りながら同じ調子で語られるので、読んでいて飽きてしまうという問題点も抱えています。その反面、文章をおもしろおかしく綴る上での苦労を、退屈な行間から教えてもらえます。
 裏表紙には「爆笑小説全11編」とあります。しかし、私には「爆笑」というよりも「朗笑」がふさわしいと思いました。

■「秘湯中の秘湯」
 どこまでが本当なのか、訝しがりながら読み進みました。入りたくなる温泉、遠慮したいがどんな所なのか行ってみたくなる温泉。とにかく楽しめます。
 中でも、私は「空中温泉」に入りたいと思います。付載の温泉情報には、次のようにあります。
  交通 秘密。
  泉質 不明。
  効能 気分がいい
  宿  なし
 
■「非常識テスト」
 物を知らないことを競うかのような女子大生の実態報告です。「七輪」を「五輪」からの連想で「ノーベル賞」と答えたのが秀逸だと思いました。
 ただし、最後のオチも含めて、もう一捻りできたように思えます。
 
■「痩せる方法」
 空回りの論理が展開するだけです。面白くしようとしているのはわかっても、まったく話題が盛り上がりません。
 
■「故事付成語」
 最初の矛盾だけが真面目で面白くありません。しかし、それがかえって面白いということになります。ごまかそうとする筆者が顔を出すので、そこを楽しむべきでしょうか。言葉のキレは悪いです。
 
■「取扱説明書」
 文明が高度になり、電子機器が高性能になるにしたがって、それらを使いこなすテクニックが必要になります。その時に言葉での説明が無意味であることが縷々と綴られています。電子機器のトリセツでは、今も悩まされています。
 
■「アンケート結果分析」
 消費者の心理を読んだ分析が綴られています。あまりおもしろくない語り口です。作者の手法に、そろそろ飽きてきました。最後の開き直りの主張は、作者も先刻ご承知だからでしょう。

■「結婚したい女性・百三の条件」
 アイデア倒れかな、と思いながら読み飛ばしました。

■「恐怖のニッポン食べ物ガイド」
 和食を題材にした、異文化体験論が、展開されます。アメリカ人から見た和食です。もっと書いてほしいと思いました。これでは生煮えで中途半端です。

■「周到な手紙」
 母のために、道順を順序立ててくどくどと説明している文です。だらだらと続く所に作者の意図があるとしても、正直言って飽きました。ここにオチがあったらいいですね。

■「只今会議中」
 不毛な会議のパターンが、いくつか例示されています。無駄ということを納得させられます。落としどころもいいですね。

■「ジャポン大衆シャンソン史」
 日本語が翻訳されていて、それを日本語に訳し戻すとどうなるか、という実例が列記されています。
 これは、現在私が科研で研究しているテーマと合致します。
 蜂矢真郷先生は、私が科研のテーマをお話しした時にその連想から、この話が本書にあることを教えてくださったのです。
 例えば、こんな例があります。
 小柳ルミ子が歌った「瀬戸の花嫁」のフランス語訳を、そのまま日本語にしたら……


「瀬戸物の花嫁」(一九七二年)
 瀬戸という陶器の町に夕闇が迫り
 遠くの島へ結婚のために行く陶器の花嫁
 若いということを人々が心配するのだが
 愛があればおそろしいことは何もない
 二段ベッドのような畑がサヨナラをする
 幼い弟は行かなかったり泣いたりした
 もし弟が男だったら泣くこともなく
 ねえ 父と母は陶器を大事にしている


 小柳ルミ子が歌った歌の歌詞をあらためて思い出しては、「あれっ」と意味を考えたりします。

 現在、『源氏物語』の外国語訳を日本語に訳し戻ししてもらっています。
 さて、海外では『源氏物語』がどのように訳されているのでしょうか。
 今しばらく、調査結果を楽しみにお待ちください。
posted by genjiito at 22:03| Comment(0) | ■読書雑記
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