2014年12月05日

佐倉の歴博で中山本「鈴虫」巻を熟覧

 古写本の調査のため、千葉県佐倉市にある国立歴史民俗博物館へ早朝より出かけました。
 ネットでルートを検索し、早くて安いという経路で行きました。
 一番のお勧めだったのが、西船橋駅と八千代台駅で乗り換える経路でした。

 東京メトロ東西線の西船橋駅から京成西船駅へ歩いて行こうとしたら、西船橋駅北口前の小さなロータリーで、前首相が手を振っておられました。ここが選挙の地盤だったのですね。

 歩き出してから気付きました。この乗り換えルートは、10分も歩くことと、道幅が狭くて成田空港へ行くときにスーツケース1つがやっと通れる道だったことを。
 特に朝は前から人が来ると、どちらかが車道に避けないと前に進めません。今日は荷物が少ないものの、案の定前から多くの人が来たので、私は車道を歩くことになりました。
 車はひっきりなしに、私の身体すれすれをかすめるようにして通り過ぎて行きます。轢かれなかったからよかったものの、命がけの道だったことを思い出し、乗り換え方がよくなかったことを痛感しました。

 車の往き来が激しい車道を、しかも轢かれないように注意しながら歩いたせいか、次の電車が来るのがあと数分しかないことを、京成線の踏み切りの近くで気付きました。踏み切りの手前の改札から入ったのでは跨線橋を渡って反対側のホームに出るのに手間取ると思い、踏み切りを渡って北側の改札から入れば、すぐに電車に乗れるはずだと即座に判断しました。
 しかし、これが大きな間違いで、歩けど歩けど駅から遠ざかります。民家ばかりで、左折して駅に向かう道がないのです。

 しかたがないので、踏み切りまで引き返すことにしました。駅に着いてみると、この小さな駅は南側にしか改札がなくて、北側に回っても無意味であることがわかりました。
 西船橋駅から10分のはずが、なんと30分も経っていました。

 以前もこの駅には懲りたはずなのに、またまた同じ失敗をしました。
 地元の方々はうまく乗り継いでおられるようです。しかし、年に1回も使わない経路であれば、単なる旅人はその利用に注意が必要だということのようです。

 それでも、あらかじめ調査の許可をいただいていた時間には間に合いました。
 博物館への入口の坂は、緩やかながらも長い登り道です。紅葉を見上げながら行きました。


141205_rekihaku




 今回の調査は、鎌倉時代に書写された『源氏物語』の「鈴虫」です。一般には中山本とか歴博本と呼ばれ、重要文化財に指定されています。
 この写本は、2008年に国文学研究資料館で開催した〈源氏物語展〉で展示するために、あらかじめ原本の確認に学芸員の立場で来たことがあります。

 私が学芸員の課程を終了したのが2008年3月なので、まさにこの本のために資格を取得したようなものでした。その後、天理図書館・陽明文庫・京都文化博物館等がご所蔵の重要文化財に指定された『源氏物語』の借り出し手続きと搬送に関わったので、学芸員資格はこの年にはフルに活用させていただいたものです。

 歴博本「鈴虫」は、すでに次のように複製本・釈文・影印本が刊行されています。


(1)『複刻日本古典文学館 第1期第3回配本 源氏物語 鈴虫・幻』(監修・編集 日本古典文学会、日本古典文学刊行会、1972年9月)

(2)『複刻日本古典文学館 釈文 中山家本 源氏物語』(日本古典文学会編、日本古典文学刊行会、1972年9月)

(3)『貴重典籍叢書 国立歴史民俗博物館蔵 文学篇第17巻 物語 2 源氏物語古写本六帖(若紫・絵合・行幸・柏木・鈴虫・総角)』(国立歴史民俗博物館館蔵史料編集会編、臨川書店、2000年3月)


 (3)の解題は伊井春樹先生です。しかし、ハーバード大学本との関係までは言及されていません。そこで今回は、『ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「須磨」』(伊藤編著、新典社、2013(平成25)年)と『同「蜻蛉」』(同、2014(平成26)年)に続く兄弟本として、『国立歴史民俗博物館蔵『源氏物語』「鈴虫」』(カラー版、伊藤鉄也・阿部 江美子・淺川槙子 編著、新典社、2015(平成27)年、予定)として刊行することになったのです。
 この「須磨」「蜻蛉」「鈴虫」の3冊は、かつては一緒に日本のどこかにあったはずの、鎌倉時代中期に書写された古写本なのです。

 歴博本『鈴虫」は墨付18丁ほどの分量なので、40頁以内のカラー頁となります。ハーバード大学本と同じように、墨流しや金粉をまぶした用紙が使われています。
 この影印に翻字を付けることは、これまでのハーバード大学本の刊行スタイルと同じです。ただし、その後半に、3冊一括で、字母レベルでの語句索引を付けます。これに100頁を充てることになります。

 今回の調査は、その最終段階としての原本確認です。
 実際にゲラ刷りをもとにして原本を見ると、何箇所かに補正すべき点が見つかりました。なぞった箇所の文字も、原本を見て疑問が晴れました。精密な複製本があっても、やはり原本で確認することは基本です。
 この原本確認をするための熟覧に、ハーバード大学美術館には3回も足を運びました。原本が日本にあるということは大助かりです。

 今回の熟覧と調査の結果、写真を1枚だけ再撮影していただくことになりました。
 師走から年始にかけて、ご多忙のところを撮影担当の方々にはお世話になります。少しでもいい本に仕上げるためにも、どうかご理解とご協力をよろしくお願いします。

 歴博の仁藤敦史先生には、熟覧にあたってはさまざまなご高配をいただきました。仁藤先生には、2005年の人間文化研究機構連携展示『うたのちから 古今集・新古今集の世界』でも、図録作成や展示に関して多くのことを教えていただき、お世話になりました。


141205_utanotikara




 今日も、熟覧させていただくにあたり、わざわざお手間と時間を取っていただくことになり、恐縮のしっぱなしです。おかげさまで、予定通りの時間で、じっくりと拝見することができました。

 さらには、現在開催中の〈国際企画展示 文字がつなぐ 古代の日本列島と朝鮮半島〉も見せていただきました。お心遣いに感謝しています。ありがとうございました。
posted by genjiito at 22:23| Comment(0) | ◎源氏物語
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]