2014年11月14日

放送大学でハーバード大学本「須磨」の異文を読む

 前回の4回の講義を踏まえて、さらに「須磨」巻を字母に注意を払いながら読み進めました。
 ただし、いきなり異本や異文を読むのは大変なので、まずは頭をほぐしていただきます。
 古写本はどのようにして書写され、製本され、伝えられて来たのか、ということです。

 受講者のみなさんには、今読んでいるハーバード大学本と雰囲気がよく似ている本として、国立歴史民族博物館所蔵の中山本「行幸」と「柏木」の2冊を回覧しました。この中山本は、16cm四方という本の大きさや、列帖装という装幀等々、ハーバード大学本のイメージが摑みやすいのです。
 この本を手にしていただいたことが意外と好評で、休み時間などにいろいろと質問を受けました。製本をなさっている方からは、具体的な質問を受けました。綴じ糸の使い方など、多いに参考になったようです。


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 また、ハーバード大学本の装飾料紙が美麗なところは、必ずと言っていいほど内側が手前になります。つまり、その装飾部分は必ず見開きで堪能できるのです。糸綴じの様子が見え、しかも左右見開きの頁で、そのみごとさが目に飛び込んでくるように仕立てられています。


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 このことも、みなさんの注意を惹くこととなりました。
 写本を作る製作者の情熱も、共に驚きをもって体感していただけたようでした。

 この古写本は、書写された物語の本文を読むだけでなく、本の装幀や紙の装飾性なども含めて、多様な日本文化が凝縮した文化遺産といえるものなのです。

 そうした書物というメディアに記された物語の本文を、今日は字母よりも異文に気を配りながら読みました。

 前回は、6丁裏までの字母を印字して配布してありました。そこで今日は6丁裏までを読み切ることを目標にしました。しかも、19種類もの異本を同時に確認しながらなので、みなさんは生まれて初めての複眼的古文体験となったはずです。19種類もの本文に目を配りながら読むことなど、生涯でそうそうできることではありません。しかも、古文の『源氏物語』です。そんな貴重な体験をしていただくために、無理を承知でどんどん写本に書かれた本文の確認をして行きました。

 読み進む内に、いろいろと中断しながら余談を交えました。退屈にならないように配慮したつもりでした。『源氏物語』の本文は、19種類を見渡しても2つのグループにしか分別できないことも、こうした手法で読むと、納得してもらいやすいのです。

 終わってからのみなさんのアンケートによると、特訓の甲斐があってか、多少は変体仮名が読めるようになったこともあり、おもしろかったという言葉が多く伺えました。こちらも初対面の方々との試みをしたわけですから、おおむねみなさんに満足していただけたので安堵しています。

 もちろん、もっとゆっくりと丁寧に、という意見もありました。しかし、とにかく現在一般に読まれている大島本という本文とは異なるハーバード大学本の『源氏物語』は、至る所で違いを見せるので意外だったことでしょう。どんどん進めたので、あまり考える間もなく次から次へと、細かいながらも異文が出てくるのです。
 いったい、今、日本で読まれている「大島本」という写本をもとにした『源氏物語』が何なのか、大いなる疑問へとつながったとしたら、それは私としては成功です。そして、この違和感は、十分にみなさんに感じていただけたようでした。

 さらには、傍記が本行に混入するという、私が独自に主張している法則が見られる箇所を指摘していくと、謎解きの要素もあるため、さらに興味をもっていただけたようです。

 この放送大学の面接授業には、さまざまな方が集まっておられます。高齢者が多いとしても、若い方もおいでです。確かな反応を感じながら進められたので、私も楽しく一緒に異文を確認して読むことができました。

 受講者のみなさんには、今日一日で膨大な量の写本の文字を読み、多くの写本に記された異文を読む体験をしていただきました。日常でこのような読書をすることはないので、さぞかしお疲れのことだと思います。これが、心地よい疲れになってほしいと願っています。
 さらには、今回手にされたハーバード大学本「須磨」というテキストを横に置いて、あらためて現在市販されている大島本を元にした『源氏物語』読んでください、とお勧めしました。
 古典の新しい読み方の提案となれば幸いです。

 強行スケジュールによる、ハーバード大学本『源氏物語』を読む8コマの講座でした。
 受講者のみなさんに、この鎌倉時代中期に書写された古写本が、どのような存在として意識されるようになったのかを、いつかお目にかかれることがあれば、ぜひ伺いたいと思います。
 少なくとも、『源氏物語』の文章は一つではないことと、変体仮名を少しは読めるようになったという自信を持っていただけたら、私の今回の役割は果たせたことになります。

 ご出席のみなさま、お疲れさまでした。
 そして、最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
 くれぐれも、お疲れが出ませんように。
posted by genjiito at 22:02| Comment(0) | ■講座学習
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