2014年10月31日

茶化された古典の日(11月1日)にちなむ記念切手

 「古典の日」が日本で粗略に扱われています。
 「古典の日」を軽視している風潮が現実にあります。
 「古典の日」が茶化されていることに歯痒い思いでいます。
 
 明日が「古典の日」ということで、『源氏物語』に関する記念切手が本日発売されました。
 かつて、国文学研究資料館所蔵の『源氏物語団扇画帖』が記念切手に採択されたことがありました。今でも、発売前に霞ヶ関の担当部局に伊井春樹館長とご一緒に行ったことを思い出します。

「記念切手の背景画になった国文研の源氏絵」(2008/7/24)

 本日早速、郵便局で、切手シートと説明書をいただいて来ました。
 説明書(表裏)は、次のものでした。


141031__001





141031__002




 これは、「古典の日」が制定されたことを記念して発行された特殊切手です。
 古典の日が11月1日となっているのは、『紫式部日記』(1008年・寛弘5年11月1日)に『源氏物語』の存在が記されていることによるものです。

 『源氏物語』の作者を紫式部という一個人に特定しない私にとって、この理由付けは承服しがたいものです。また、本記事の末尾に述べるように、その制定の経緯と法律の条文に不信感を抱いているので、多分に問題のある記念日だと思っています。

 さて、日本郵便のホームページに掲載されている、今回の切手のデザインに関する説明を引用します。


発行する郵便切手のデザインについて

切手シート全体を料紙(染料や顔料で色付けしたり、金・銀の箔で装飾した紙)に見立て、さらに各切手の画面を扇型及び貝覆いを想起させる蛤形にすることにより、古典のイメージを表現しています。
切手のデザインは、「古典の日に関する法律」で定められている「古典」の定義により、「文学、音楽、美術、演劇、伝統芸能、演芸、生活文化その他の文化芸術、学術又は思想」の分野を代表する各種題材により古典を表現しています。
 
(1)紫式部日記絵巻と書籍
 紫式部日記絵巻と書籍により、文学、美術、学術及び思想を表現しています。

(2)華道と囲碁
 華道と囲碁により、生活文化及びその他文化芸術を表現しています。

(3)能楽と文楽
 能楽と文楽により、演劇及び伝統芸能を表現しています。

(4)琵琶と演芸
 琵琶や落語、浪曲により、音楽及び演芸を表現しています。

(5)源氏物語絵巻と巻物
 源氏物語絵巻と巻物により、文学、美術、学術及び思想を表現しています。


 切手を見ながら、それぞの図柄に関して多くの疑問が生まれました。
 重箱の隅を突くようになりかねないので、最初の絵についてだけコメントを付します。

 一枚目の上段の図柄は、『紫式部日記絵巻』(重文、旧森川家本、第3段)からのイラスト化だと思われます。道長の妻である源倫子が、若宮の敦成親王を抱いている場面でしょう。

 下段に描かれている書籍は、四ツ目綴じ(あるいは康煕綴じ)です。『日本古典籍書誌学辞典』(1999年、岩波書店)によると、「四つ目綴じ」の項目に次のような説明があります。


中国明代に隆盛を見た糸綴じ線装本の影響を受け、わが国室町初・中期よりこの装訂法が起り、以後和本の写本・刊本を通じての主流となった。(594頁)


 平安時代を背景とする『紫式部日記絵巻』と一緒に、この綴じ方の本を配するのが適当であったかどうか……。雰囲気のイメージ化なので、平安も鎌倉も室町も一括りで「古典」ということなのでしょう。
 また、冊子の題簽は右上に貼られています。普通は、左上か中央なのですが……
 一般的には、こうしたキャラクター物は古典の雰囲気が出ていればいい、ということに留まります。しかし、本そのものに興味を持つ者の習い性として、細かなことが気になりました。これについても『日本古典籍書誌学辞典』から説明を引きます。


題簽が貼られる場所は短冊簽は表紙左上が普通だが、歌書・物語・絵本などの書き題簽が表紙中央に貼られる場合が多いのは、外題は中央に記すという中世以来の文学的伝統を踏まえたもののようである。寛永時代(一六二四−四四)以降の刷り題簽になると歌書・俳書・絵本・草子の類は短冊簽を中央に貼り、その他の本はおおむね左上に貼られ、類書や字書の類は題名を示した短冊型の外題簽を左上に、方型の目録題簽を中央に貼るというような類型が出来てくる。(366頁)


 この題簽に書かれている文字は、右の本が「花のいろは(花能以呂八)」で、小野小町の「花の色はうつりにけりな……」の初句のようです。左の本は「秋乃花」です。

 蛇足ですが、5枚目の絵に描かれた巻物も、興味深い装幀となっています。表紙の裏面(見返し)は装飾料紙ではなくて、和歌を書いた紙が貼ってあるのです。そこには、「めくりあいて〈改行〉それとも」と読めそうで、紫式部の歌の一部です。

141031_kana




 左側の本文料紙の巻頭部分は、「いか(可?)お(於?)た(多?)む(武?)かし〈改行〉よりて」と読めそうです。小さな文字の変体仮名が識別し辛いので、私にはやっと判読できる程度で意味不明です。
 雰囲気作りとしてのイラストなのですから、あまり細かく見ないほうがいいようです。

 古典の日の制定について、私は個人的には批判的です。

 そのことは、「空転国会の暇つぶしで決まった「古典の日」の条文は空疎な文字列」(2012年08月31日)で、詳細に記した通りです。

 今、「古典の日」は祝日ではありません。しかし、この「古典の日」を祝日にすることにでもなれば、その時にはこの法律のあやふやな日本語文を全面的に書き換えた方がいいでしょう。
 私にとっての「古典の日」は、国会議員に騙し討ちに会った記念日となっています。

 「古典の日」にちなむ傑作なキャラクターが出現した年もありました。文化庁のポスターにも掲載されたので、ご記憶の方も多いかと思います。
 このことについては、「素直に祝えない「古典の日」に伊井語りを堪能する」(2012年11月01日)でも報告しました。このイラストは、文化庁からその後、訂正版が出ました(『京都新聞』2013.8.3、「古典の日キャラ 巻き物逆向き」)。

 「古典の日」については、もっと正しい情報を若者たちに流してほしいと思っています。
posted by genjiito at 23:58| Comment(0) | ■古典文学
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]