2014年09月12日

読書雑記(107)沢田ふじ子『短夜の髪 京都市井図絵』

 沢田ふじ子著『短夜の髪 京都市井図絵』(光文社時代小説文庫、2014年4月10日)を読みました。


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 沢田さんの小説を読むのは、古筆家を扱った『これからの松』(朝日新聞に連載後、朝日新聞社、1995年12月刊)以来です。
 京言葉での会話が生き生きとしています。

■「野楽の茶碗」

 京都室町筋にある柊屋という茶道具屋の物語です。
 心地よい京都弁で始まります。この丸みを帯びた、軽快で滑らかな言葉によって交わされる会話の遣り取りが、本作の特徴の一つです。
 野楽の茶碗とは、「茶碗屋」と呼ばれた焼き物師たちが、京都の各地で手捏りの黒楽や赤楽の茶碗を作ったものです。楽は、温度の低い小規模な窯でも出来たので、あちこちの茶会で使われたのだそうです。
 正月初釜を舞台にして、話は展開します。仕覆を取り換えるために預けたはずの野楽の黒茶碗が、何とお茶席に堂々と出て来たのです。茶道具をめぐる興味深い話を背景にして、事件は見事に収まります。道具屋という商人の姿が活写されています。【4】
 
初出誌︰『小説宝石』(光文社)2012年1月号
 
 
■「危ない橋」

 室町筋の突抜町にある、茶道具屋「柊屋」の話です。千家三世の宗旦が造った信楽の小壺が話題となります。お寺から仏画が出る事情や、表具と表装、さらには古典籍の伝来の背景についても、よくわかる説明がなされています。
 一万両の値打ちのある巨勢金岡の仏画をめぐる話は、突然幕が下ろされます。次の話へ、ということでしょうか? 【3】
 
初出誌︰『小説宝石』(光文社)2012年2月号
 
 
■「短夜の髪」

 話は一転して、御池にある古着問屋「笠松屋」の主である正兵衛と異母姉のお登勢の話になります。威勢のいい女のしゃべくりと大活躍が語られます。
 この笠松屋には、「柊屋」から買った俵屋宗達の「寒山拾得」の屏風がありました。貧しい長屋で育ったお登勢と母の話には、胸が詰まります。情が冷静に書き綴られてています。いい話です。
 最後に出てくる誕生仏は、26両で「柊屋」が引き取ります。しかし、これは次巻で200両で売れるのです。【5】
 
初出誌︰『小説宝石』(光文社)2012年5月号
 
 
■「暗がりの音」

 大八車に京野菜を積んで売り歩く朝吉は、大きな夢を持っています。八百屋を町中に持つことでした。
 本話での、印章や落款の話は勉強になります。偽物や贋作についても、興味深く読みました。
 さて、朝吉が盗品故買に加担していることがわかり、おもしろい展開となります。名物手といわれる大井戸茶碗が話題となり、「柊屋」が活躍します。
 話に躍動感があり、見事な話の綴じ目を見せます。【5】
 
初出誌︰『小説宝石』(光文社)2012年6月号
 
 
■「世間の篝火」

 平安時代の来迎図や、巨勢金岡筆の聖徳太子の孝養図など、由緒のある名品が話題になります。ただし、最後に筆が急いだ印象が残りました。もっと話を聞きたいと思わせる、そんな話題が提供されています。【3】
 
初出誌︰『小説宝石』(光文社)2012年7月号
 
 
■「誰の徳利」

 酒好きの父を思いやる娘と、賀茂茄子の絵徳利が主役です。しかも、徳利は、織部の本物なのです。人間の心の清らかさが描かれています。意外な展開でいい話です。【5】
 
初出誌︰『小説宝石』(光文社)2012年8月号
 
 
※単行本︰光文社刊 2012年10月
posted by genjiito at 23:14| Comment(0) | ■読書雑記
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