2014年09月05日

江戸漫歩(85)『みをつくし料理帖』の爼橋と千代田図書館

 千代田図書館の書庫の中で、反町茂雄氏や中野三敏先生等から寄贈を受けた古書目録の調査をしています。山を移すかのような作業を、一人で黙々と相変わらず続けています。

 千代田図書館が入っている千代田区役所の横を流れる日本橋川には、宝田橋が架かっています。
 宝田橋越しに区役所から皇居方面を望むと、川には首都高速5号池袋線が覆い被さるように走っているため、圧迫感のある光景となっています。


140905_takaradabashi




 しかし、伸び伸びと屹立する10階建ての区役所ビルは、皇居側からだと、この街の元気さを見せてくれます。

 日本橋川を吹き抜ける風も、めっきり秋らしくなりました。

 宝田橋のすぐ北の靖国通りには、俎橋が架かっています。東側(写真右)の神田神保町と、西側(写真左)の九段下を結ぶ橋です。


140905_manaitabashi




 この爼橋は、先日、全10巻が完結した高田郁の『みをつくし料理帖』の舞台です。女料理人の澪が働いていた料理屋「つる家」は、写真の左奥になります。澪は、この橋に佇んで、楽しい時や辛い時に星や月を仰いでいました。もちろん、小説の世界の話ですが……

 さて、千代田図書館では、膨大な古書目録にどんな『源氏物語』の古写本が掲載されているのか、ということを調査しています。もちろん、『源氏物語』に限らず、その前後の作品や、私が勝手に興味を持ったものも抜き出しています。

 『源氏物語』が、いつどこでどのような形で売りに出されていたのかを追跡する事によって、古写本の伝流経路はもとより、五十四巻がいつどのようにしてバラバラになって今に伝えられているのか、ということがわかります。また、今確認できていない『源氏物語』の古写本も、出品されていたことから、その存在を確認する上での手掛かりともなります。

 今、我々が確認できる以前の『源氏物語』の姿を垣間見ることが、こうした目録類から知ることができるのです。
 『源氏物語』の古写本の伝流史や受容史が、古書を売買した目録から見えてくるのです。
 ただし、その情報を引き出すためには、とてつもない手間と時間が必要です。

 まだ、千代田図書館にある目録類の百分の一も見終えていません。到底、私が生きている内に終わるとは思っていません。
 これも、古写本の翻字と同じように、次の世代に託さざるをえません。NPO法人〈源氏物語電子資料館〉の仲間に託そうと思っています。引き継ぐ人が見つかるまでは、私が一点でも多く抜き出しておくつもりです。

 今日は、たくさんの情報が集まりました。と言うことは、冊数はこなせなかった、という有り難いような有り難くないような、微妙な満足感を得た1日となりました。

 今日の成果のいくつかを抜き出して、以下に紹介します。
 ちょうど、私が生まれた昭和26年前後の即売会の目録です
 コメントは、さらに調査が進んでからとします。

--------------------------------------

■『和洋古書大即売展出品目録』■
 (1949.12.1、会場:日本橋高島屋)

122 蜻蛉日記 宝暦六年刊 合四 800円
123 土左日記 寛永二十年風月宗智刊 書入本 一 600円
408 重要美術品 伊勢物語 鎌倉中期古写 桝形本 一 65,000円
  純白厚目の斐紙、為家風の文字美しく豊か。蓋し伊勢物語の古写本中最も優秀なるもの。
411 重要美術品 源氏物語柏木 伝源三位頼政筆/鎌倉時代古写本 一帖 40,000円
 本文は青表紙本河内本いづれの系統とも異り、文章の差異多し。
412 源氏物語口決 里村紹巴自筆/元亀元年古写本 一巻 6,800円
 紹巴が三条西称名院より口決伝授の秘義を記して、その高弟心前に授けしもの。長巻。
414 源氏物語聞書 本居宣長講 殿村安守自筆筆記、原本 五 1,500円
433 物語拾遺百番歌合 伝冷泉為相筆/鎌倉末期写 一帖 25,000円
 古物語研究の重要資料、此の古写本によつて流布本の缺脱を補ふべし。極めて雅装。
497 光悦本 伊勢物語 慶長十五年刊、古活字版/五色紙、原表紙 上本 二 18,000円
499 清少納言枕草子 寛永中刊、古活字版/十二行本 五 4,500円
500 狭衣物語 元和中刊、古活字版/十二行本、極上本 八 5,500円
 
--------------------------------------
 
■『和洋古書大即売展出品目録』■
 (1950.1、会場:日本橋高島屋)

529 竹取物語 寛永寛文頃写松平忠房侯舊藏 一 5,000円
 所謂島原本の名によりて知られたるもの。竹取の諸傅本中最良の一。
530 重要美術品 伊勢物語 伝藤原為家筆、鎌倉中期写/流布本の最古本 一 65,000円
535 古本宇津保物語 寛文元禄頃古写本 廿一 15,000円
 半紙判大、鳥の子胡蝶装両面書き。流布本と異同多し。
539 落窪物語 永正天文頃古写本/九条家旧蔵本 三 30,000円
 古写本稀れなる落窪としては頭抜けて古く、疑ひもなく最古の傳本。字句に異同多し。大桝形、青色原装、全三冊。
540 落窪物語 上写、諸異本校合本 四 1,800円
541 重要美術品 源氏物語 帚木 伝藤原為家筆、鎌倉/中期写、松浦家旧蔵 一 38,000円
542 源氏物語 さかき 伝西園寺実勝筆/極彩色土佐絵表紙美本 一 3,500円
543 源氏物語 河海抄 文明十三年写、傳兼良筆 一〇 25,000円
 大形極上本。河海抄としては年代明かなる最古本なるべし
544 源氏小鏡 大永五年古写本 一 1,500円
545 紫式部日記 邦高親王本系統、元禄頃写 二 2,500円
546 紫式部日記 南葵文庫本、写真焼付 一 700円
550 異本狭衣物語 足利末期古写 四 18,000円
 平出家舊藏本。本文巻第一は深川本に近く、しかも異る所あり、他巻も流布本と差異甚だ多し。雲形に金泥模様、極めて古雅なる上本
555 とりかへばや物語 文政五年宣長校合本伝写 三 1,500円
556 更級日記 寛永寛文頃古写上本/松平忠房候旧蔵 一1,500円
801 和泉式部物語 絵入 寛文十年刊 一帙 三 1,500円
802 宇津保物語 絵入 延宝刊書入あり 二帙 三〇 2,000円
803 蜻蛉日記 契沖説等詳細書入/宝暦六年刊 八 1,000円
804 勢語臆断 享和刊 斎藤彦麻呂自筆書入 五 850円
 
--------------------------------------
 
■『和洋古書大即売展出品目録』■
 (1951.12、会場:東京古書会館)

145 蜻蛉日記 諸異本校合写本/西荘文庫旧蔵 一 1,800円
586 絵入源氏物語 大本 上本 六〇 3,800円
587 絵入源氏物語 横本 万治三年林和泉掾/板行き 上本 三〇 3,500円
588 をさな源氏 野々口立甫 古雅絵入/寛文元年 五 1,300円
589 源義弁引抄 一華堂切臨 上本 二〇 4,500円
590 源氏物語俗解 絵入 享保十一年刊/題簽付 原装稀本 一七 5,000円
 
--------------------------------------
 
■『古書大即売展出品略目録』■
 (1952.12、会場:東京古書会館)

1 源氏物語抄 古鈔本 一一、一六、一七、三冊缺/脇坂八雲軒旧蔵本 一七 5,000円
2 源氏物語 桝形古写本 箱入 五四 7,500円
3 古写本 伊勢物語 連歌師宗椿筆 箱入 一 2,800円
4 伊勢物語絵図 極彩色 十二枚 帖仕立 一 4,000円
405 天福本 伊勢物語 里村紹巴自筆/永禄五年古写本 一 2,800円
406 奈良絵本 伊勢物語 元和寛永頃古写/極大形本 四 28,000円
408 源氏花鳥餘情 文明四年奥書本/寛文頃写、極上本 一五 5,000円
409 源氏帚木別注 宗祇著、延徳元年古写本 一 2,000円
410 源氏六巻鈔 小島宗忍手写、慶長頃写/大形厚冊 六 7,500円
411 源氏物語湖月抄 中島広足自筆大書入本 六〇 10,000円
 朱藍墨の三筆にて行間に書入れ、更に至る所に附箋して自説を述べ、又先人の説の当否を批判す。流石に見識の窺はゝもの多く、新説の採るべきもの亦多し。
412 源氏ゆかりの要 老鼠堂永機旧蔵写本/梗概書 一 700円
413 狭衣物語 大永天文頃古写本/金襴表紙極上本 四 30,000円
425 明月記 藤原定家自筆原本/嘉禄二年八月 一巻 200,000円
526 狭衣物語 寛永中刊、古活字版/異本校合書入本 四 9,000円
1088 狭衣系図 寛文頃写 金泥模様表紙付 一 1,000円
1089 源氏和秘抄 寛文頃写 胡蝶装 一 1,500円
1090 光源氏物語系図 文亀甲子年奥書本寛文頃/書写セルモノ 五色料紙 一 2,000円
 
--------------------------------------
 
■『新興古書展出品追加目録』■
 (1952.12、会場:東京古書会館)

235 源氏物語 足利末期古写本/帚木 明石 欠 五二 3,800円
236 源氏物語 寛永寛文頃古写本 五四 3,500円
237 源氏物語絵巻葵巻 伝正親町院勾当内侍筆/白描絵入 慶長頃 一巻 10,000円

--------------------------------------

 今日の調査対象となったのは、反町氏が出品した古書展の目録でした。そのせいもあり、いい本がたくさんあります。『源氏物語』の周辺に限定しても、とにかく抜き出しに追われるほど、点数が多いのです。詳細な検討は、すべて後日です。
 
 今、疲れた身体を新幹線のシートに埋めて、京都の自宅に向かっているところです。
 後ろの席では、2人の子供が愚図ったり泣き騒いでいます。いつものように自由席に座っているので、これを書き終えたら別の車両に移動します。

 お母さんは口だけで子供を叱っています。子育ては大変だと思います。それは理解できます。それだけに、周りの乗客は不愉快な思いを強いられても、じっと耐えるしかありません。
 これが指定席だったら煉獄です。
 毎週のこととはいえ、この当たり外れは避けられない運としか言いようがありません。
 歳を取った証拠なのでしょうか。子供が泣き叫ぶ声が、疲れた身体と神経に響きます。
posted by genjiito at 23:48| Comment(0) | ・江戸漫歩
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]