2014年07月02日

藤田宜永通読(19)『女系の総督』は次作を期待させるか?

 藤田宜永の新刊である『女系の総督』(2014年5月、講談社)を読みました。


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 この小説の舞台は、東京で私が生活の起点としている宿舎がある深川一帯です。富岡八幡宮や深川不動尊、そして門前仲町界隈など、いつも歩いている地域が出てくるので親しみを感じながら通読しました。

 最近の藤田宜永は、私が好んだ恰好良いハードボイルドから遠ざかり、ふにゃふにゃした恋愛物に移っていたので、その評価を低くしていました。
 作家も変化して成長しないといけません。しかし、私は藤田宜永の恋愛観はともかく、その恋愛物の筆致に馴染めません。

 今回の作品は、まだ中途半端です。だらだらとお喋りが続き、軽さを狙って半身を装ったスタイルが、どうも手抜きにしか思えませんでした。

 それでも、テンポがよくなったので、素直に入っていけました。しかし、しだいに話が弛れてきます。

 この作品は5章仕立てです。私は、この第1章と第5章だけで十分だと思います。第2章から第4章は、家族の問題や主人公の恋愛と母の認知症などの健康問題がだらだらと語られます。このスタイルは、藤田宜永が手を付ける手法ではないと思います。

 次作への変化を期待しながら、本書におつきあいしました。
 まだまだ、藤田宜永は自分探しの旅をするのでしょうか。私には、藤田宜永に求めるものが明確にあるので、余計な回り道をしなくても、と思っているところです。ほっといてくれ、と言われればそれまでですが。

 さて、第1章は女同士の会話がテンポよく交わされていて、快調に始まります。肩の力を抜いた語り口が、読みやすくしています。どこでその脱力感から緊張した場面に転換するのかを、楽しみにしながら読み進めました。
 東日本大震災と原発やガンのことにも、今どきの話題として言及されます。しかし、それは表層をなぞるだけに終始するので、もっと語ってほしいところでした。母の認知症に関しては、最後まで主人公やその家族に関わる問題として取り上げられています。社会問題としての目が加われば、いいテーマになりそうです。
「親の一生は、子供にとっては謎だらけなのだ。」(67頁)
と言うことばには納得しました。
 しかし、それをとことん突き詰めないで、傍観者的に取り込まれていたのが残念でした。これは、今後のテーマにしたいのでしょうか。

 第2章に入ると、途端におもしろ味が薄れます。恋愛感情を語らせると、どうも流れが淀みます。語り手が逡巡していては、それを読まされる方は疲れが倍増します。恋愛感情の絢は、今は他の作家にまかせればいいのに、と感じます。ここでは、下手な恋愛話をする一人の男に成り下がっています。
 また、女と距離をもとうとし、引き下がる男を語る段になると、筆の弱さが露呈します。もったいないところです。
 この章から第4章にかけては、早く終局になってほしいと望みながら読みました。無理に話を盛り上げようとしてか、不倫相手の女が家へ押し掛けて来たりします。
 ご丁寧に、作者が自分で次のように言って、予防線を張っています。まさに、テレビドラマの台詞が並んでいるところです。自分で書き続けながら、その陳腐さに自分で気付いたのでしょう。

安手のテレビドラマにありそうな台詞。この手の台詞を平気で書く作家のものは読みたくもないが、現実面においては、侮れない一言である。(168頁)

 この章は、低俗な会話と屁理屈が続いています。

 第3章でも、酒場でのとりとめもない会話を長々と読まされます。主人公の恋愛マイスターぶりにも飽きます。
 頭を切り替えて、話を転換してほしてところです。

 第4章も、何ということもない、たわいもない話が展開します。気を抜いた文章です。
 人間の心の細かな動きを追うことが中心となっています。ただし、それが些細な心の中の動きなので、全体の流れとバランスがとれていません。もっと展開をおもしろくし、事件を呼び込んでほしいところです。
 丹念に人と人との心の襞を描こうとしています。それは伝わってきます。しかし、そこにもっと膨らみと余裕があったら、読者は疲れと飽きを感じないはずです。
 後半で、主人公の妻が幼い娘に手をかけようとした件は、久し振りに緊張感が漂います。私が望む、藤田らしい描写となっています。この話題を出し惜しみせずに、もっと早く前半で扱うと、全体的に引き締まった作品になったのではないでしょうか。それを躊躇した作者の思いに興味を持ちました。

 第5章で、娘の事故によりやっと話が活気を帯びます。第1章のテンポの良さが戻ってきました。藤田宜永は、情に訴える話は諦めたほうがいいと思っています。
 この第5章の勢いで次作を書いてもらいたいと思います。藤田宜永は、筆のパワーと息もつかせぬ展開が信条の作家だと思っています。それを楽しみにして、私は読んでいます。女心の訳知り顔の分析は、他の人に任せればいいのです。
 最終章に見られるように、話の最後の盛り上げ方はまだまだ健在です。いや、もっと盛り上げられます。抑圧された恋愛を描く練習をした時期の影響が残っているのか、自制的に話を閉じようとしています。【3】

 がんばれ、藤田宜永!
 
 
 初出は、2011年12月から2014年2月の間に、学芸通信社より以下の新聞に配信されたものです。
 「信濃毎日新聞」「熊本日日新聞」「高知新聞」「秋田魁新報」「北國新聞」「神戸新聞」「中国新聞」
posted by genjiito at 22:52| Comment(0) | □藤田通読
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