2014年06月02日

バイカラ先生とトルコ語訳『源氏物語』などの翻訳談義

 トルコ・ボスポラス大学のオウズ・バイカラ先生から、翻訳について有益なお話をうかがいました。

 逸翁美術館の伊井春樹先生と日本文芸家協会の長尾玲子さんから、『源氏物語』のトルコ語訳に着手しようとなさっているバイカラ先生を紹介していただいたのは先週のことです。そして、バイカラ先生は、今週末にはトルコへお帰りになるとのことなので、取るものもとりあえずお目にかかりました。
 長時間にわたり直接お話をすることができたことは、幸いでした。


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 イスタンブール生まれのバイカラ先生の日本語は、非常に流暢です。
 私は2004年にトルコへ行きました。その時のことは、次の記事にまとめています。
「私の〈河岸〉スナップ(その3・トルコ)」(2013年06月13日)
 トルコのみなさんの日本語がきれいだったことが印象的でした。

 バイカラ先生は、イスタンブール大学で経済学の勉強をなさった方です。
 そして、日本の大学では日本語の音声学で修士論文を、芥川龍之介と谷崎潤一郎の研究で博士論文を執筆なさいました。芥川・谷崎・志賀直哉の小説も、数多く翻訳なさっています。
 『源氏物語』については、アーサー・ウェイリーとエドワード・サイデンステッカーとロイヤル・タイラー訳の3種類を比較した、とのことです。また、トルコにおける日本文学についても、整理されたようです。
 その成果を拝見したいと思っています。もっとも、日本語しかわからない私にとって、先生から日本語で説明していただくしか理解する方法がないのが残念です。

 今日うかがったお話で一番興味深かったのは、空蝉についてでした。トルコで蝉は、畑を襲う蝉のような昆虫だとのことです。つまり、この虫をトルコ語にそのまま翻訳すると、空蝉という女性のイメージは台無しになるのです。

 これによく似た話を、トルコ語訳『源氏物語』に取り組まれたアンカラ大学のエルキン・ジャン先生からもうかがいました。
 以下のブログで紹介しているように、夕顔という花をそのまま訳せないとのことでした。

「トルコ語訳『源氏物語』のこと」(2007/11/16)

「源氏千年(43)朝日「人脈記」10」(2008/5/7)

 なお、このエルキン訳『源氏物語』は、バイカラ先生の話では、刊行が遅れているようです。

 さらに、トルコでは海産物も訳し難いとのことです。魚や貝は、非常にやっかいなのだそうです。そこで、翻訳においては、意味がわかればいというのではなくて、再構築して訳出する必要があるのです。

 原文から離れないと翻訳はできない、ということを強調なさっていました。翻訳は、原文に忠実なだけでは認められないと。
 意味に忠実に翻訳するとはどういうことか、ということを深く考えておられました。時には、他の動物や植物を使うことで対処する、とのことです。
 一例として、白魚のような指という意味を伝えるためには、鉛筆のような指と訳すかもしれない、とも。
 翻訳には文化の変容が伴うことなので、これもなるほどと納得しました。

 楽しくて有意義なお話をうかがっているうちに、あっという間に2時間以上が経過していました。

 今週の金曜日に、私が主催する研究会でスペイン語訳『源氏物語』に関するディスカッションをするので、よろしかったらお出でになりませんか、とお誘いしました。しかし、日曜日にトルコに帰国なさるため、その用意でお忙しいとのことでした。
 今日のお話の続きは、またの機会を楽しみにします。
 そして、『源氏物語』の翻訳が進捗することをお祈りしています。
 くれぐれも気をつけてトルコにお帰りください。
 再会の日を心待ちにしています。
posted by genjiito at 22:38| Comment(0) | ◎源氏物語
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