2014年05月30日

読書雑記(99)山本兼一『花鳥の夢』

 山本兼一の『花鳥の夢』(2013年4月25日、文藝春秋)を読みました。


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 巻末にあげてある参考文献のうち、『狩野派絵画史』(武田恒夫、吉川弘文館)・『御用絵師 狩野家の血と力』(松木寛、講談社)・『謎解き 洛中洛外図』(黒田日出男、岩波書店)を読んでいたので、絵画史における狩野家の役割などは理解していました。ただし、絵師である永徳個人について具体的にはよく知らなかったので、非常に興味深く読むことができました。

 話のおもしろさと語り口の巧みさに、思わず引き込まれ、一気に読みました。人間の大きさや小ささが、行間から伝わってきます。時代背景と史実と芸術とを語る中で、永徳という一人の人間を描いていきます。それをとりまく人々も、人間の中身までえぐり出すように丁寧に述べていきます。

 「絵は端正が第一義」という狩野家の画法を永徳はどうするかが、まず語られます。
 十三代足利将軍義輝は、狩野元信の子で現当主松栄直信ではなくて、その子の永徳の力量を見抜きます。そして、「人の世には、花と夢がなくてはかなわぬ。」と言って、洛中洛外図を描かせるのです。

 父は、狩野家に伝わる粉本(模本)を永徳に渡します。しかし、永徳はそれを使う気はありません。都の華やかさと賑わいを描くためには、それではもの足りないのです。父の反対を押し切って、京洛を歩き回り、自分の目に収めます。父を見下す息子の気持ちがよく伝わってきます。
 そして、画帖を作りました。祖父元信が言った「よい絵からは、よい音が聞こえる」という教えを心に大事にして。

 永徳は、京洛から都のざわめきが聞こえる洛中洛外図を目指します。
 永徳の洛中洛外図の構想を通して、読者も京の旅気分に浸れます。
 その後、父から受けた教えは、魅せる絵ではなくて、観る者の心が遊ぶ場所を作る、ということでした。永徳が父を見直すきっかけになる言葉です。

 永徳の成長や信長の話が一頻り語られ、長谷川等伯が弟子入りしてからが、さらにおもしろくなります。そして、永徳が等伯を破門するくだりは圧巻です。

 後半で、黒田官兵衛が出てきます。現在、大河ドラマで話題になっている人物なので、この存在もおもしろく読めました。
 最後に、利休が永徳の父の凡庸と思われる絵を褒める場面があります。なかなかうまい一場となっています。そして、利休は長谷川等伯の絵を大徳寺で採用します。
 人間の美意識の違いが、利休によって浮き彫りにされていきます。利休の考え方も注目です。

 全編を通して、等伯からのプレッシャーと闘う永徳の姿が、みごとに活写された作品に仕上がっています。【5】

 なお、『源氏物語』の絵画化について、以下の3ヶ所で、少しだけですが触れています。


 そもそも、永徳の祖母も、女ながら絵師であった。土佐光信のむすめとして生まれ、祖父の嫁となったのである。土佐派の奥義を身につけているだけあって、源氏の絵巻などを描かせれば、いたって達者だった。
 狩野の画風は、和漢を兼ねている。(32頁)



その奥の対面所は、筆頭弟子の宗十郎が華やかな源氏物語図を描いた。大和絵の手法をもちいて、内裏に遊ぶ公家や女官たち、桜に柳、牛車などを達者に描いた。
 人物に生硬さがあるが、男たちは大仰な衣冠束帯、女たちは色目も鮮やかな十二単をまとって長い黒髪を垂らしているので、あまり気にならないのが幸いである。(404頁)



絵の具が乾くあいだには、源氏物語、花鳥、秋草の図を描いた。どの絵も描いているのが楽しくてならなかった。(448頁)

 
 
*初出誌:『別冊 文藝春秋』2009年11月号〜2012年9月号
 本書で加筆・修正。
posted by genjiito at 23:16| Comment(0) | ■読書雑記
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