2014年05月22日

読書雑記(98)山本兼一『銀の島』で追悼

 山本兼一は、本年(2014年)2月13日に、57歳という若さで亡くなりました。この訃報は、ベトナム・ハノイ大学での調査を終えてホテルに帰り、インターネットで日本のニュースを見て知りました。

 山本兼一の〈とびきり屋見立て帖シリーズ〉は、絶品といえるほどの傑作でした。
 三条木屋町で道具屋を営む真之介とゆず夫婦の話は3冊まで刊行され、シリーズとしてますますおもしろくなっていました。今後が大いに期待できる構想の豊かさが実感できる作品だったこともあり、次作の発表を楽しみにしていました。それだけに、もう読めなくなったことが本当に残念です。

 これまでに私がこのブログで取り上げた山本兼一の作品は、以下の通りです。

「読書雑記(56)山本兼一『千両花嫁 とびきり屋見立て帖』」(2012年12月18日)

「読書雑記(57)山本兼一『ええもんひとつ ―とびきり屋見立て帖』」(2012年12月19日)

「読書雑記(63)山本兼一『赤絵そうめん』でお茶のイメージトレーニング」(2013年04月17日)

「読書雑記(58)山本兼一『利休にたずねよ』」(2013年01月07日)

「読書雑記(59)山本兼一『利休の風景』」(2013年01月08日)

 昨年末に海老蔵が主演で映画化された『利休にたずねよ』(2013年12月28日)を京都三条の映画館で観た後、次に山本兼一のどの作品を読もうか、と思案していた時にベトナムで知った訃報でした。
 次は、『花鳥の夢』(2013年)、『命もいらず名もいらず』(2010年)、『戦国秘録 白鷹伝』(2002年)の順番で読む準備をしていた時だったので、とにかく驚きでした。もう新作が出ることはないので、遅ればせながら、これからゆっくりと他の作品を読もうと思います。

 さて本作『銀の島』は、『小説トリッパー』(2007年夏季号〜2008年冬季号)に『ザビエルの墓標』として連載されたものが元となっています。それを大幅に加筆した上で『銀の島』と改題し、2011年6月に朝日新聞出版から単行本として刊行されました。
 今回、追悼の意味で朝日文庫として緊急出版されたのです。


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 すでに、島根県のアンテナショップである「にほんばし島根館」で、世界遺産に指定された石見銀山を紹介するパンフレットなどの資料を揃え、一通り目を通していました。その準備が、今回役に立ちました。


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 通俗小説を書いていた主人公は、明治43年にザビエルのことが知りたくて、横浜から船でゴアへ行きます。そして、ザビエルの伝記に欠かせない資料が、ゴヤで見つかったのです。そこに書かれていたのは、衝撃的な内容でした。そこから、石見銀山がクローズアップされるのです。300年前に安次郎が日本語で書いた手記を託された私は、それを英訳する前の筆写に厚遇を得る中で手を付けます。巧みな物語展開です。波乱万丈の冒険譚の始まりです。

 時計は、天正15(1587)年に戻ります。
 安次郎は、東南アジアからインドのゴアへと、艱難辛苦の人生を送ります。そこにザビエルとの出会いがあり、運命が大きく展開します。ヨーロッパと東南アジアと日本の物流がよく描けています。『唐物の文化史』(河添房江、岩波新書)を読んでから、唐物のことに興味を持ち出したこともあり、多くの舶載品の動きに注意を向けながら読みました。香木の話も出てきます。貿易についてもわかりやすく語られています。

 外国人の目から見た日本人の描写が新鮮でした。こうした逆転した視点から見ると、日本の文化がよく炙り出されます。特に、礼法については、日本人はおもしろい文化を持った民族であることがわかります。

 やがて話は、バラッタの登場によって、大内氏の石見と、尼子氏の出雲の話になります。山口の大内氏の話になると、吉見氏や吉川氏の名前が出てきます。大島本『源氏物語』にまつわる話に出てくる氏族の名前ということもあり、どんどん引き込まれていきました。ただし、話が石見銀山を舞台としてから、しだいに面白みに欠けるようになりました。展開が平板になったのです。話が嘘っぽくなってきたこともあります。作者の無理が見え出したこともあります。鉄砲の話の時もそうでした。調べたことに集中するあまり、ドラマ性がなくなってきたのです。

 最後の場面で、人として生きていく上で一番大切なものは「仲間」だと言います。その考えで、また話は大きく進展していきます。
 月光を浴びる中での海戦の様は、読みごたえがありました。
 作者は何度も、「あなたは、いったいなにをしに日本に来たのか。」とザビエルに問いかけます。あの『利休にたずねよ』という小説を思い出させるラストシーンでした。

 もっとも、「石見銀山占領計画」なるものがこの小説の中心になるはずが、どうもうまく作品の完成度を上げるのに貢献していません。おもしろく読者を引っ張ってくれます。しかし、肝心の話は盛り上がらないままだったように思われます。独創性が失速した読後感となりました。【3】
posted by genjiito at 23:55| Comment(0) | ■読書雑記
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