2014年01月28日

読書雑記(93)柴田よしき『桜さがし』

 柴田よしき氏の作品は初めて読みます。
 『桜さがし』(2012年3月、文春文庫)は、京都を舞台にした青臭さの残る話となっています。

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 安定した語り口で、安心して読み進められました。人が死ぬことを、上手く引き出して始まります。

 吉田神社の節分祭を扱った「夏の鬼」は、話のうまさを感じます。会話が自然で、語り合う場面が眼に浮かびます。吉田神社の姫だるまは、いつか手に入れましょう。

 女性の心の中の変化を描く筆致がいいと思います。反面、男性の心理は理性で解釈した表面的なものに留まっているのが、惜しいと思いました。

 登場人物の言葉遣いについて、女性はなめらかな関西弁です。しかし、男たちの言葉遣いはとってつけたような大阪弁です。このことが、読んでいるときから気になりました。

 作者が得意としている小ミステリーは、手が込んでいる割にはおもしろ味にかけます。しかし、話の持っていき方はうまいのです。人間をうまく描けるからでしょう。

 「梅香の記憶」は、雰囲気は上品でも、出来はよくありません。このギャップは、作者の構想力と構成力が不足しているからだと思われます。

 「翔べない鳥」は、京大病院やゴイサギが出てきて、それらと縁の深い生活をしている私にとっては、親近感をもって楽しめました。内容は、これも芳しくなかったのが残念です。

 一番いいと思ったのは「片想い猫」です。ただし、東寺の弘法市をもっと詳しく書いてほしいと思いました。ここの描写力の貧困さはいただけません。しかし、完成度は本作の中では一番です。

 「思い出の時効」で下鴨神社を出すなら、縁結びの相生社をなぜ話題にしなかったのでしょう。ここの御神木は、京の七不思議の一つでもあります。このことに触れないのは、作者の調査不足と想像力の貧困さを露呈させています。

 この小説には、京都の観光名所がたくさん出て来るので、旅行気分にも浸れます。そのお得感をさらに増すためにも、舞台の下調べは充分にしておくべきでした。京都という地を物語に生かし切れず、その名前に負けてしまったようです。

 そうした難点は多いものの、若者たちは元気です。
 中学時代の仲間が夢を追いかける姿には、好感を持って読めました。この登場人物達の青臭さが、この作品の持ち味となっています。教員を辞めて作家になった先生も、いい役どころを果たしています。
 作者が意図したものなのか、構想力の足りなさが生んだ偶然の産物なのかは、私には判断しかねます。

 文章が明るくて、しっかりと人間が描かれています。ネタがいいので、もう一捻りできるようになれば、柴田氏の作品は読ませるものになっていくはずです。機会があれば、また別の作品を手にしてみたいと思わせました。【2】

*単行本 2000年5月 集英社刊
・一次文庫 2003年3月 集英社文庫
posted by genjiito at 22:25| Comment(0) | ■読書雑記
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